銀魂番外編 | ナノ




手慣れたように舌で口内を探り


白い肉付きの良い汗ばんだ肢体が絡みつく


艶のない黒髪が畳に広がって


盛りのついたメス豚の、誘うような流し目


鳴くんじゃねェといったのに、耳にうるせぇ嬌声


あぁ、何もかもあいつと・・・朔夜と違いすぎて吐き気がしてきた。



「高杉様、その女の代わりで構いませぬ。だから、どうか――抱いてくださいまし・・・」



何が代わりだ、笑わせんな。


テメェじゃ、アイツの面影の一つも映りゃしねぇじゃねーか。



***



「・・・っは・・・朔夜・・・」


『晋助・・・』


「朔夜・・・あい、してるぜェ・・・は、ぁ・・・っ!」


全く朔夜と似つかない女をこの手で抱きながら、左目に焼きつく微笑みが綺麗な幻惑の朔夜にむけて愛を囁くが


右目に映る現実の女のせいで萎えてきて、思わず引き抜く。


それと同時に泡のように消えていく幻、そして見える右目に映るのは


声が耳障りだったから鳴かねェように猿轡を噛ませた、名前もしらねェ、俺を誘ってきた淫乱のぐったりした姿。



「・・・・・・(この女じゃ、全然朔夜の代わりになんねぇ・・・)」




朔夜の身体はもっと小さくて細かったし、肌は雪原みてェに穢れない色白で


細かい生傷が痛々しくて・・・だがそれすらも綺麗に見えた。


目の色もこんな濁った汚い黒じゃなくて、もっと色素が薄い


光の加減で輝いては周りを魅了する宝石のような透き通った銀灰色の目だった。


声だって、こんな耳障りじゃねェ・・・鈴のような、金糸雀みてぇな


高くて澄みきった・・・癒される声で、美しかった。


匂いだって、脳髄が蕩けさせていかれるように濃厚な甘い香りで・・・


こんな吐きたくなるような香水なんかじゃ引き出せない自然なもんだった。



これからゆっくり伸ばすんだと言っていた闇色の髪は、艶やかで触り心地も俺好み


水にしっとりとぬれるとさらに深い色になるのがアイツ自身を表しているようで、愛しかった。




「・・・(朔夜・・・)」



途中で抜いたためか、不思議そうに不満そうにこちらを見てくる女を視界から外し


アイツの消えた部屋にとり遺されていた、いつも桜色の唇で咥えて


手製の甘い煙を燻らしていた煙管に火を入れて、目を閉じて口づけ煙を吸う。




『けほっ・・・』


『!朔夜、煙管なんて身体に悪ィだろ・・・』


『ふふ、お手製のだからその辺は考えてるよ』


『・・・そうか・・・しかし、お前みてーな甘ェ匂いだな・・・』


『小生みたいかはわからないけど・・・茨から抽出して作ったんだよ・・・晋助はこの香り嫌い?』(にこり




「(・・・好きに決まってんだろ・・・お前の香りだ・・・)」(ふぅ・・・


「・・・高杉、様・・・」


「――・・・なんだ・・・」



俺が、朔夜の事を思いだしてたってのに・・・この女・・・


そう思いながら、目を少しだけ開けて、起き上がったらしい、半裸の女を横目で睨みつける。



「あ、の・・・続きは・・・」


「・・・終わりだ、萎えた」


「え・・・そんな・・・!」


「うるせェ・・・てめェじゃ朔夜の代わりになんねーんだよ。失せろ・・・」


「!なっ・・・!!」


「・・・(朔夜・・・俺をここまで虜にしときながら・・・)」



死体もみつからねェし・・・かといって生存確認もできねェ・・・



「(お前は、今どこにいんだァ・・・?)」



俺だけに、教えてくれよ


お前のことを、今度は絶対離さねーから・・・



「(なぁ・・・茨姫さんよォ・・・)」



100年の眠りにゃ、少しばかり早いだろ・・・?


そして窓から、でけェ月を見上げると、女が、背後から急に抱きついてきた。



「!てめぇ・・・!」


「・・・どうしても、その女を愛しているのですか?」


「ふざけたこと聞いてんじゃねェ・・・さっさとどかねぇと、斬るぞ・・・!」


「・・・そんな女なんかより、私を見て・・・」


「(ピクッ)・・・そんな女・・・?」


「そんな女です。貴方に愛されていながら、側にいない女などお忘れに――」



ドスッ



突き飛ばした女の谷間をかすめ、目の前の畳に刀を突き刺す。



「ひっ・・・!!」


「阿婆擦れ如きが・・・朔夜を、そんな女だァ?

朔夜を知りもしねェで・・・殺されたくなけりゃ出ていけ・・・俺にその薄汚ねェ身体、二度とすりよせんな」



そう言えば、女は青ざめすすり泣きながら着物をかき集めて出ていった。



「・・・(胸くそ悪ィ・・・朔夜・・・お前にも気分悪い思いさせたな・・悪かったなァ)」



そして再び、煙管を咥え目を閉じる。


すると、やはり朔夜が目の前で微笑んで、口づけてくれる気がして、俺の中の獣も寝静まる。



「(・・・朔夜・・・やっぱりなァ・・・俺にはお前だけだ・・・)」



お前以外の女なんかいらねェ


お前じゃないと、渇きが癒えねェ・・・



「愛してんだよ…」



愛するお前は、どこにいる?



***



煙を月に吐き出した後しばらくして、俺の元に男が来た。



「高杉様、知らせが」


「・・・なんだ?」


「・・・茨姫が、大江戸にて発見されたそうです」


「!・・・間違いなく事実か・・・?」



俺の前で、頭を下げている男を見下ろす。



「はい。特徴も一致します」


「くくっ・・・ようやくか・・・」


見つけたぜェ、朔夜・・・


やはりお前は、まだ生きていた。


しかも大江戸たァ運が良い。


近々の祭りに参加する予定もあったし、行くつもりだったからなァ


何て偶然・・・いや、必然か


俺とお前は、結ばれるために・・・


お前は、俺の物になる為に生き残ったんだ。



「・・・すぐ迎えに行くからなァ・・・俺の可愛い朔夜・・・」



良い子で待ってろよ・・・


ーー左目に映る幻はーー
(お前の手を離したあの日が焼き付いて離れない)
(なあ…きっと運命なんだ、俺達が出会い、別れ、そして再び愛し合うのは)

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