鉄則も錆びる
「俺の仕事はね、本当は外で馴染みの店なんか作っちゃいけないんだ」
「…ふうん…」
2人では少し窮屈なソファに座って、当たり前のように私の腰を抱いているメローネは、いつも通り招いた覚えのない不法侵入者なわけだけど
もう追い返すことも諦めつつある私は、好きなようにさせている。
別に繰り返される愛の言葉にほだされてるわけじゃなくって…どうせ私では彼にはかなわないからであって。そう、それだけ。
それにもう眠いから。だから、気力がないの。
「俺が仕事のこと話すなんて珍しいとは思わない?」
「…まあ、思う…」
「なら、なんで馴染みの店をつくっちゃあいけないの?とかやかましく聞いてみたりしたらいいのに。もしかしたら答えてあげるかもしれないよ」
「…生き延びたいなら、余計な疑問は力のある人間しか持ってはいけないっていうのが、下町の市民の鉄則だよ…」
メローネの仕事に深入りしてもいい結果があると思えない、と零せば、彼は弾かれたように盛大に笑い出した。
夜中にやめてほしい。ここ壁薄いのに大声だされたら近所迷惑なのに。
「くくッ…ラウラはお馬鹿さんなりに、堅実だな」
「…馬鹿で悪かったね。もっと頭のいい綺麗な人のところに行ったらいいのに」
「いやいや、許してくれよ。そんな君だからディ・モールト可愛いのさ。落ちないように、必死で切りそろえられた小さな丸い爪をたてようとする子猫ちゃんだから愛してるんだ」
「ああそう…」
「白けた返事はよくないぜ?」
「もう眠いの」
深く考えることを放棄して返事を返せば、まだ待ってくれよ、と囁かれる。
「俺はまだ眠くないんだ」
「知らないよ」
「ならセックスしようか?そしたら疑問がなくても寝なくてすむ」
「なんでそうなるの……」
「…ラウラが俺を知る方法なんて、疑問を持ってくれないなら体しかないじゃあないか」
ああもう面倒な人だな、この人。
仕事じゃあなくって、私に自分を知って欲しいんじゃない。
そっとアシンメトリーの金髪に指を絡ませて宥めるように声を出す。
「……メローネ、私はね…貴方が甘い言葉の尽きない変な人ということと、本当に私の料理を好きでいてくれる。それだけ知っているから十分だよ」
「違う、これは君の意見なんか関係ない。要は俺が満足して、君がそれを受け入れてくれなきゃ困るんだ」
「……」
我儘な子供を相手にしてる気分になってきた。
いらっとして、絡めた指で髪をくいと引っ張る。
「ふふ、引っ張ったりしてキスの催促かい?」
「ばかねえ…私は彼女でもないのに…」
「ラウラが俺の告白に答えてくれたら、その疑問とも言えない問題に関しては、すぐにでも解決する話さ」
そのセリフにはぐぅの音もでなくて、口を閉ざせば、待ってたといわんばかりに唇を食べられた。
end
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