甘い堕落
私のことが大好き。
今までそんな風に想って、言葉をくれた人は今はもういない家族以外いなかったし
私もそう想い返せる人はいなかったから、これからも私は結局1人で生きていくんだろうと思ってた。
それは欠点だらけの私自身に原因があることも分かっていたし、
1人なら1人で、それなりに幸せでいる方法を知っていたからそれでも良かった。
失ってきたものの寂しさからは目を背けて、まあいいかと思ってた。
本当よ。だって、冷えきった御時世だもの。
年中、一人きりの人間は珍しくない。
駅のホームに1人だって
映画館で1人だって
ショーウィンドウに映る姿が1人だって
バールでご飯を食べる時に1人だって
ぬいぐるみに埋もれたベッドで眠る時に1人だって
私は、寂しくなんてなかった。
そんなもの感じる余裕もないまま、慣れてしまったもの。
「だからメローネ、貴方なんか私にはいらなかったの」
「そう?だとしても俺の人生には少なくとも君が必要だな」
突き放す言葉も、自分勝手な甘い言葉に混ぜられる。
どうにも悔しくて、なにも言い返せなくて
ボサボサだった頃が嘘みたいな、ツヤツヤ髪質にされてしまった私の髪を梳く、目の前から伸びる手をぺんぺんと叩く。
「...バカ。メローネのバカ。」
「心外だなあ、ラウラほどじゃないぜ」
「なにそれ。私のこと嫌いにならない貴方の方がおかしいよ!...嫌いになったらいいのに」
「そうだな...ラウラがそれで笑うなら嫌いになろうかな」
「笑うよ。笑うに決まってるから」
「いいや、俺が君を嫌いになったら、君はきっと泣くよ。断言するね。君はもう、自分を甘やかして愛してもらえない生活なんかできないさ。
努力しなくても、清らかじゃなくても、甘やかしてもらえるって幸福を、君は知っちゃったんだからね」
いい加減認めてしまえばいいと言わんばかりの無駄に綺麗な顔をぐっと近づけられて、真っ赤になりそうなのをぐっとこらえて、胸を押し返す。
「私は、人に甘えなくてもちゃんと生きていけるもの!」
「はいはい。ラウラはディ・モールト意地っ張りだね」
「違う!」
end
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