つみ は みつ の味がする?
「ところでラスト、お前は人を殺したことがあるか?」
さらりと目の前の男から発されたセリフに、思わず飲んでいた冷たいカッフェを器官にいれてしまって噎せる。
「…その反応は、なさそうだな」
「あるわけないじゃない…!あったら今頃、私はブタ箱行きかギャングの女よ!」
「今から裏社会に身を投げ込むやつがなにを言ってるんだ…」
「それとこれとは話が別よ。大体殺しなんかするほど人に殺意持ったことなんて……、…」
「…ないわけじゃなさそうだな」
父親か、と私の髪を手に取り問いかけてくるディアボロに頷く。
「…私、これでもあんまり人を嫌いになったり憎まないタチなのよ。自分の短い人生の時間を費やすにはあまりにもそれは無駄なことだと思ってるから」
「ああ、知っている」
「…だけど、あのクソ親父だけは憎いわ。今なおよ」
「…生きてるのか、その親父は」
「多分、アルコールで勝手にくたばってなかったらね」
酷いアル中の、クズとしか言えないクソ親父だったから、アルコールで死んでいてもなんの不思議もない、と肩をすくめてみせる。
「なら、お前が最初に消さなければいけないものが決まったな」
「…殺してはくれないのね。貴方は殺しをしたこと、きっとあるんでしょうに」
「お前なら自分の手で殺したいかと思ったが…殺して欲しいのか?」
吐き出された言葉に少し詰まり、ひとつ息を吐き出す。
確かに、この男の言うとおり。
他人の手に任せようとしても、私は私の手できっと憎しみにけじめをつけたいのだろう。
あいつのために無駄にした時間の、けじめを。
そしてこれから新たに生まれ変わり、血で真紅に染まったカーペットの道を歩み出すためにも。
「……いいえ、やっぱり私がやる。あのクソ親父を殺したいのは、私だから」
「…ふっ…それでこそ、私の隣に立つ女王に相応しい」
「ありがとう…貴方と同じ血の色に染まってあげるわよ。罪を犯す味が、蜜のような味に変わるまでね」
***
鼻に付く硝煙の匂い。
壁や床に飛び散った汚い赤。
こんな間近に屍体が転がるのは、初めて。
「はぁ…はぁ…っ!」
「落ち着け、ラスト。もう死んでいる」
「っディアボロ……」
「…お前が引き金を引く必要もなかったな。優秀なスタンドだ」
「……反射的にスタンド出したけど…まさか、働きに出した実の娘を撃ってくるなんてね…」
酒を飲んでは私を殴ってきたどうしようもない男だったが
数年ぶりに帰ってきた娘を、幽霊扱いして撃ってくるほど出来上がったクズになっていたとは思わなかった。
「…大慌てして自滅で死ぬなんて、最後までクソ親父らしいわ」
「…悲しんでいるのか?」
「まさか。むしろ、こんなに簡単に殺せるんだって、笑っちゃいそうよ」
行く道をレッドカーペットに染める最初の1人にしては、あまりにあっけなさすぎたけれど
おかげさまで、今後も上手にこの花道を歩いていける気がした。
「生まれて初めて役に立ってくれたわね…クソ親父、ありがとう」
end
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