加害者Mの献身


俺はなにかを始める時は楽しんでやらなくちゃあならないと思っている。

セックスしかり、仕事しかり、なにしかり、楽しくなければそれは短い人生を無駄に浪費しているだけにしかすぎないじゃないか。

全く楽しくない人生にどれほどの価値があるというのか。

だから俺は、禁欲的で平凡で消え入りそうな彼女、ラウラにすっかり心奪われてしまった時に考えた。

永遠に幸せにする王子なんて俺にできるわけもないから、せめて忘れられない一過性の楽しみを与えたいって。

だから!だから俺は、彼女が俺無くして、楽しい世界を得られないくらい楽しませてあげるためになんでもしよう!

空気のような彼女を見つけて出逢って、うざったいくらいに構ってあげよう。

うざがられるのも、嫌われるのも、気持ち悪がられるのも俺は慣れているから。

君が作る料理がいかに美味いかを、便箋10枚分以上の言葉で賛辞してあげよう。

君が何よりも求めてきたのは、自分の料理を美味しいと言って食べてくれる相手だと、俺はとうに知っているから。

彼女は本来愛されて当然な子だから、もっと世界を賑やかにしてみよう。

俺の仲間は多分存在をちらつかせておけば、勝手に暇を持て余したやつが会いにいくだろうし、ラウラの料理を一口食べたら、きっと胃を掴まれる。腹を空かせたやつらばかりだし、それに彼女の人格はあいつらには新鮮だろう。俺がそうだったから。

そうして、ここまでは概ねうまくいった。

まあ相変わらず、いや当然だが、ラウラは俺を愛してくれたりはしてないけども、そもそも俺の名前すら彼女は今日知ったばかりだけど、それでもなんやかんや俺や仲間のことを受け入れてくれているのだから上々なところだろう。

だが、彼女に本当に楽しい時間を提供するには、まだもう少し、だが最も重要なことに俺は労力を費やす必要がある。

俺が労力を費やした先で、彼女はなに一つ知らず新しい未来で笑っていてくれるなら、俺の苦労など安いことだからまったく構わないんだが、これはラウラがきっと最も嫌う方法だ。

これからやろうとしていることを知ったら、きっとラウラは俺を嫌いになるだろうし、俺は彼女を殺してしまわなければいけなくなる。

だが、延々と彼女が自尊心を削られながら、悩まされ続ける世界は、最高の楽しみを与えるためには変えなければいけない不要なものだ。

だから彼女のために、彼女の世界の憂いの原因は綺麗さっぱり取り除くに限る。


大丈夫だよラウラ。なにも知らない内に一瞬で君を苦しめてきた全てが変わるから。

明日、君の目が覚めた瞬間から、君を抑圧してきたものはなくなるよ。


これが、王子にもなれないし、魔法使いでもない、人殺しの俺なりの彼女への献身で

本当の愛なんて誰にも割いたことのない、俺の彼女への愛なんだ。誰が何を言ってもね。

古臭い化粧品の匂いと血の匂いを拭き取ったら、彼女にもっともっと楽しい時間を、楽しいことを教えてあげよう。

たくさんの楽しいで、わびしくてさびしい心を埋めて満たしてあげよう。

これらは愛する彼女への献身だから、特に彼女になにかを求めてやっているわけではないけれど、欲を言えば、そうだなーー…


「…あ、あんたなんなのよ!!この変態!警察を呼んで…」

「…俺がなにとか、君がなんでこんな目に合ってるかも、この先どうでもいいことだ。それより…君はどんなやり方が好みだい?番号で、選んでくれよ」


ーーいつの日か、俺の献身的な愛情に答えてくれたら万々歳だ。


「さあ早く選んでくれないか?夜が明けちまう。シェフってのは、起きるの早いんだろう?」


end

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