いつも視界に


ラウラという女は、どうしようもなくドジで、間抜けで、お人好しな馬鹿な女だ。

この前もなにもねえ場所でこけかけていた。

とっさに支えてやらなかったら、あれは顔からいってただろう。

その上、ひどく甘っちょろい女だ。

面倒な頼みも断わろうとしねえし、メローネさえなんやかんや受け入れているなんて、信じらんねえ。

そして何より、自分を軽んじてる女だ。

昨日も酔っ払いに思い切りぶつかられて怒鳴られても、自分が謝って終わらせようとしてた。

思わず酔っ払いを俺が殴ろうとしたら、小さいくせに、首根っこ…というより襟を後ろから思いっきり掴んできやがって、首が締まり息が詰まった。

怒鳴ろうとしたら、それより先に「いいから!」と一言。

納得なんか全然してねえが、その時の必死なラウラの顔に、酔っ払いを殴る気も削がれた。


「…だからあいつほっとけねえんだよ。危なっかしすぎるぜ。あんなお人好しだから、メローネや俺たちなんかに気を許しやがって…」

「…なあギアッチョお前、随分とラウラにベタ惚れなんだなあ、意外だぜ」

「……はあ?なに言ってんだよホルマジオ」


安いバーのカウンターで、隣の席で話に付き合ってくれているホルマジオを見る。


「いや完全に惚気だろ、今の。そこが可愛いって話だろ」

「惚気!?馬鹿なこと言ってんじゃねえよッ!あいつは手間がかかる妹分みてえなもんだッ」


俺がラウラに惚れている?んなわけあるかよ!

たしかに飯の味には胃を掴まれちゃいるが、それだけで女として惚れたりなんかしてねえ。

ただ、悪いやつじゃねえし、タダ飯を食わせてくれる恩もある。

メローネに、引くほど溺愛されていて可哀想なやつだという同情心も少なからずある。

だから保護して面倒見てやらねえとって、妹分みてーなもんだって、そういう気持ちで見てっから

メローネなんて、仕事はできるが人格破綻した変態に惚れてんのか解せねえっていうか、もやついて少しばかりイラついてくるだけで

ラウラにならもっと幸せにしてくれる野郎が現れるだろうし、あんな変態よりなんだったら、もうどうせなら、俺にしとけば……!?


「……………俺……まじで惚れてんのか…?」

「しょうがねえなあ〜…ようやくかよ」

「……嘘だろ」

「むしろなんで気づいてねーんだよ……お前いつもラウラを、目で追ってんじゃねえか」


初恋もまだの童貞かよ、とつけ加えられた台詞にはキレたが

だが…そうか、俺はラウラに惚れてんのか…


「………失恋決まってんじゃねえか」

「恋ってのは理屈じゃねえんだぜ、ギアッチョ」

「プロフェッショナル顔で語ってんじゃねーよ」


先なんかねえ感情を、ラウラに抱いていた自分のバカさにイラつきもしたが

それ以上に、いつも変わらねえ気の抜けるラウラの姿を思い出し

先がなかろうと、好きでいるのは悪くねえか、なんて思っちまったから、俺も大分あいつにやられているようだ。


end

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