夏日の爽


「あー!嘘でしょ…見誤った…」


気温は38度。

猛暑というのにふさわしい今日この日。

からっと晴れた夏空は、祖国の街並みにやっぱり映えるし非常にすがすがしいけど、勘弁してもらいたかった。

多めに作っておいたはずなのに、カラになりかけてる製氷機の中身を見て、ため息を吐き出す。

まさか、観光客の人なんかも来たりして、いつもより来店客数も増えて、氷が予想を上回って減っていくなんて。


「(今から作って…ディナーの分足りるかなあ)…困った…」

「おいラウラ!いねえのか?!」

「!あ、ギアッチョさん!こっちこっち!」


慌てて厨房からカウンターに顔を出せば、うっとおしそうに汗を流し入ってきたギアッチョさん。


「なんだいるじゃねえか…アイスカッフェとか頼めるか?外暑くってよォ〜…たまったもんじゃねーよ」

「アイスカッフェ……ごめん、ちょっと今日はもう氷を使えなくて…」

「はあ?なんでだよ」

「実は今日の暑さで氷がよく売れちゃってね…夜の分が、今から作って間に合うかどうかの瀬戸際なの…」

「まじかよ…大丈夫なのか?それ」

「ダメだよ〜…だから困ってるの。ワインとか冷やすのもたくさん氷使うし…暑いから今日は尚更よ」


一気に冷やして、短い時間で氷が作れたらたくさん作れるのに。

なんて、夢みたいなことを苦笑して零せば、ギアッチョさんが少し考えたあと、入口の方に踵を返した。


「?ギアッチョさん?帰るの?」

「いや…とりあえず10分待ってろ」

「?」


なにかあるんだろうかと思いながら、出て行ったギアッチョさんを待っていると、しばらくして彼は大きなクーラーボックスをかついで戻ってきた。


「それなあに?」

「氷。これで足りねーか?」


クーラーボックスを開けると、そこにはクーラーボックスいっぱいの氷。


「わあ…!!すごい!!どうしたのこれ!?」

「いや……知り合いの店から貰ってきてよ。ミネラルウォーターで作ってあるから水質も安全だぜ」

「すごい…魔法でも使ったみたい!ギアッチョさんグラッツェ!これで今晩なんとかなりそう!」


感激してハグをすれば、「男に簡単に抱きつくなッ」とべりっと引き剥がされた。


「ったく……また氷なくなったり、冷やしたいもんがあったら言えよ。なんとかしてやる」

「頼もしいなあ…そんな優しいギアッチョさんにはこの夏の試作デザートのグラニータを食べさせてあげる!第一号だよ!」

「や、優しかねーよ別に!いつも世話になってっからで…」

「ちょうど作ってたんだー」

「聞けよテメーッ」

「んー?いちごとエスプレッソとレモンどれがいいー?」

「…ったく……エスプレッソにしてくれ(まあ、いいか…)」


end

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