Godersi il dessert
チーフシェフが行方不明になった。
それを聞いたのが2週間ほど前。
まだ彼女は見つからない。
でもリストランテは回さなきゃいけないからと、前から私の料理を評価してくれていたらしいオーナーが
私にもまともに料理を担当させてくれるようになった。
チーフに押さえつけられてて、強く出れなかったが、私の料理は本当に美味しいと、そう言って。
でも、やっぱりなんだか釈然としないままでいる。
どうして急にチーフがいなくなったのか。
いきなり押し上げられたのか。
これではまるで、私の存在が彼女を消してしまったみたいだと。
全てが酔っているような夢のような気がして、重い息ばかりが吐き出される。
「(多分一部の人もそう思ってるんだろうな…なんとなく視線がそう語ってる)」
そんなこと、臆病で馬鹿な私ができるわけないのに。
別の意味で居づらいと、厨房から逃げ出して裏口で頭を抱えてしゃがんでいれば、また気配もなくそっと肩を抱かれた。
「ひっ!?」
「ラウラ、どうにも今日は幸せそうじゃあないね」
「め、メローネ…」
「ああ、俺の名前呼んでくれるんだ。ディ・モールト嬉しいよ」
にこにこと笑う顔がなんとなくて今日は怖くて、距離をとろうとしたが、肩に回された腕がそれを許してくれない。
意外と力が強くて、ますます泣きそうになる。
「…今日は…なんなんですか…」
「ラウラのリストランテの、チーフシェフが消えたって聞いてさ。ラウラがまいってるんだろうなって思ってね」
「……本当に、なんでも知ってますね…」
「そりゃあかわいそうなラウラをベリッシモ愛してるから」
随分とまともじゃない愛情ですね、と皮肉を口にしようとして、はたと思う。
チーフシェフがいなくなったのは、2週間前。
彼が最後に来たのも、2週間前。
…あの日彼は、たしか、忘れかけていたけど…変なパソコンを抱えてて、それでーー…
「…ラウラ、」
「っ、あ…」
トーンの変わった低い声にびくっとして、考えてはいけない思考を切り離した途端、肩にあった手を後頭部に回され、がぷりと唇を重ねられた。
飢えた獣に食らいつかれたような衝撃に、目を固く閉じてなされるがまま震えることしかできない。
本当に、ファーストキスだったのに。
こんな、こんなストーカーに。
「ぁ…ふっ…ぷ、ぁ…」
「っ…(ああ、やばいまじでラウラの余裕ないトロけた顔ベネ!ディ・モールト・ベネ!!)」
何回か貪って、彼は満足したのか私の唇を離した。
「ふぁ…はふ…なに、するんですか…!」
「ラウラがなんだか馬鹿なこと考えてたみたいだからさ、お仕置き…かな?それに次はファーストキス貰うって言ってたじゃないかい」
「う……(…たしかに…証拠もないのに私ったら…)」
でもあんなファーストキスなんて、と思って肩を落とすと、彼はにったりと笑った。
「…わかったならベネだ。ああでもラウラ、ここが苦しいなら早く辞めることを勧めるな」
「え?」
「君の料理はベリッシモ美味い。でもここの店でそんな精神状態じゃあ、味も魅力も半減だ」
君を誰よりずっと見てた俺の言葉を信じるなら、君は自分でリストランテをやる方が似合ってる。
そう言って、彼はまた額にキスをして私の手をとって立ち上がった。
変態の彼なりに、私に元気と希望をくれようとしているのかな…
ストーカーだけど真実味がある言葉に、お礼くらいはと口を開いた。
「あの、メローネ…ありが…」
「というわけで、今すぐここを辞めて俺ととりあえずホテル行かない?勃っちゃった」
「やっぱりこの手を離してくださいッ!!」
to be continue…