Bevanda rinfrescante con insalata.


「はあ…(最近あの人を見かけない…嬉しい)」


ぱったりと変態の彼は、姿を現さなくなった。

きっかいなファッションを見ることもない。

あの不安は、私の自意識過剰か杞憂だったのか。

それならそれでいい。

ただ、厨房で今まで通り試作品を作るだけの生活に戻ったのだから。

…ただ、誰も食べてくれない料理を眺めるのが少し辛さが増した気がするけど気のせいだ。

そもそも私は、週一でタダ飯を食べに来て、なおかつ訳のわからない愛を語ってきた彼のために作っていたわけじゃあない。

同じ女性料理人として憧れているチーフに、料理人として認めてもらいたくて作っていたのだから。

だから、


「なあに…貴女また料理を作ってたの?」

「は、はい…私にもそろそろ、調理をさせていただきたくて…チーフに、認めていただきたくて…」


だから味で決めてください、と言う前に手から叩き落されたパスタ皿。

割れて床に散る、陶器の破片と。

落ちて生ゴミにされた、作ったばかりのパスタ。


「あっ…!!」

「本当にうざい…私がなんで貴女の料理なんか食べなきゃいけないのよ。なんなの?才能あると思ってんの?ないんだから諦めなさいよ!」


突き飛ばされて、どんくさい女みたいに床に尻餅をつく。

チーフはそんな私を一瞥もしないで行ってしまった。


「…私の料理は…プロには通じないのかな…」

「それはおかしいね」

「!」

「…うん、このパスタもディ・モールト美味いよ」


項垂れていると、気配もなく横から久しぶりの声が聞こえて顔を上げれば

目の前には床に落とされたパスタをフォークでつついて咀嚼するストーカーの彼の姿。


「な、なに食べて…!?」

「もったいないから。ラウラの料理はこんなになっても美味いよ」

「だ、だめですよ…ッ!汚いんですから!!」

「そう?」

「そうです!今水をあげますから口をゆすいでください!」


おかしな行動ばかりする人だとは思ってたけど、ここまでなんて…。

そう思いながら立ち上がり、ミネラルウォーターを入れたコップを渡す。

そうしたら、彼はにっこりと笑ってグラッツェと短く言って水を口に含んだ。

何を考えているかわからない彼に脱力する。


「…ほんとに…貴方はなんなんですか…」

「ん?知りたいかい?」


水を飲み干して、彼は自分唇を舐めて笑った


「…そりゃ、名前すら知らない人に自分ばっかり知られてたら…」

「たしかにそうだ。俺はラウラの自慰する姿も知ってるのに」

「やっぱり知らないままでいいです!!!」


ぎゅ、と耳を手で抑えようとしたら、彼に腕を掴まれ引き寄せられて、私の耳に彼の唇があたる。

ひぃ、と喉を引き攣らせた瞬間、低い囁くような声。


「メローネ」

「…へ?(くだもの…?)」

「俺の名前だよ、ラウラ。呼んでみて」

「…めろー、ね…?」

「その怯えた顔ディ・モールト良し…まじで勃ちそう。犯したくなる」

「!?さ、触らないで…!!」


するすると言われる台詞に、身の危険を感じて振り払おうとしたら、額に軽くキスされた。

押し付けられる唇の感覚に体がびくついて固まる。


「…やっぱりどうせ口直しするなら、水よりラウラの方がいいね」


汗まで甘く感じる。

そううっとりと呟く、メローネとようやく名乗った彼に、かつてないほどの悪寒を感じた私は悪くないと思う。

けどそんな私をよそに、彼は私を離して立ち上がり、動くこともできず、ただ呆然と見つめ返す。


「いま唇にしたら俺は我慢できないだろうから、唇は今度会った時にね」


ディ・モールト良いファーストキスにしてあげるぜ、と彼は笑って、パソコンを片手に抱えて去っていった。


「……(あんなパソコン、彼持ってたっけ…?…ってそうじゃない!!キス!!!)」


ストーカーに額にキスされた事実を思い出し、いやあああああと呻きながら、額を抑えてうずくまった。

見慣れないパソコンのことなんか、もうどうでもよかった。


to be continue…
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