La vostra acqua per favore.
「今日はアクアパッツァか!これはディ・モールトベネッ!」
「(…やっぱりまた来たのね…)」
目の前の彼の、空いたグラスに水を注ぐ。
衝撃の真夜中に現れた変質者との食事は、あれから何故か週1の恒例になった。
一週目のあの時は、疲れすぎの夢だと思おうとしてあのあと夢だ夢だと耳を塞ぎ、踵を返して鍵を閉めて即時に帰った。
二週目に来た時は、裏口の戸を開けた瞬間、笑顔で彼が立っていたから悲鳴をあげて思い切り叩き閉めようとしたらフットインされて押し負けた。
三週目に現れた時は、閉め忘れた窓から入ってこられて警察を呼ぶかと電話をかけようとしたら、携帯を破壊された。
その時点で、もう脅しの言葉は必要なかった。
この街の人間なら、生存本能でわかることを私も理解した。
この人は裏稼業の人間で、余計なことを他人に言ったら私は翌日にはこの世にいないと。
それから私は諦めて、今まで完食してくれる相手もいないままに作っていた料理を、週1のその日だけに作って持て成すことにした。
名前もいまだ知らない変質者に、料理を持て成すなんて、なんとも馬鹿みたいな話だけど
迫ってきておきながら、目の前でお腹を鳴らした変質者に脱力したという経緯がある。
それに、食べてる間は彼は料理に夢中で大人しい。
特に月末の週の時は、顕著。
裏稼業なら金持ちでしょうに、と言ったら、リゾットがリゾットを毎日…と言ってつっぷしていた。
どうやら裏稼業の人が皆、お金持ちというわけではないみたい。
「あなたは…餌をもらいに来るガット・リベロみたいですね…」
「いや、君に愛を語るためにきてるストーカーだけど」
「(自分からストーカー申告!?)」
「でもラウラ、君は君の料理を残さず食べる俺を追い出さない…さては俺に絆されてきてるなッ!」
「ふ、普通に怖いからですけど…」
おどおどと否定すれば、怖い…とぼやいて俯かれた。
やばい人種に言いすぎた…殺されたくないな…と謝ろうと口を開いた。
瞬間、ガシッと手を掴まれて身体が跳ねる。
「ひっ!?」
「…俺がラウラを前からずっっっと見てて、ディ・モールト愛してるからここに来てるのは本当だ」
「……は、はい……(え、なにこの弁解。怖がらないでってことなの?別の恐怖が忍び寄ってくるけど…真剣な顔…)」
酷く真剣な瞳にどきり、とする。
が、それは気のせいだったとすぐに思った。
「君のことはな、ずいぶん前に路地裏でゴミ箱に料理を捨ててるの見た時から気になって調べたんだ」
「え」
「数時間前までは、ほかほかだったんだろう食べてもらえない料理を切なそうにゴミ箱に投げ込む姿!」
「あの、」
「チーフシェフに嫌われながらいつまでも安月給の仕事に打ち込む姿もベリッシモ素敵だった!親近感が湧いたよ!!」
「ねえ褒めてないです」
「その料理をゴミバケツに食わせるなら俺の口に投げ込んでってくらいほんとは前から料理が食べたかったッ!あわよくばラウラも一緒に食べたかった!!」
「…」
「だからつまり、君の仕事、人間関係、生活スタイル、生理周期、その他君が知られたくない恥部まで見つめ調べていくうちに、俺は君を好きになっていったってことだ。わかるかい?ラウラ」
「…あなたが本当にやばいストーカーだっていうのはすごくよくわかりました」
「ああラウラ、俺の可愛いラウラ、そうじゃない!恋人いない歴=年齢の君も、さすがにオレが満を期して君の前に現れた理由はわかるはずだッ!」
「(これ喧嘩売られてるのかな!?)」
to be continue…