‖感傷は心の中 「大将、新入りの和泉守に姫さんの近侍を任せるってほんとかい?」 「ああ、あの子には和泉守が適任だ」 珍しい。 俺っちの長い付き合いの大将は、自他共に認める孫馬鹿で、今までも自分のそばから離したことはなかったのに まさか、新しく来たばかりの和泉守に姫さんを一任するとは。 「なにかあるのか?和泉守に」 「…いや、彼自身ではないが、彼の前の主に所縁がね」 「へえ…」 「我々には過去の運命を変えることは許されてはいないが…未来の希望を作ることは許されているからね…これは、せめてだよ」 中庭で姫さんの遊びに付き合っている和泉守の姿を見つめる横顔は、どこか憂いを刻んでいた。 大将は5年前に娘と婿養子を失ってから、ますますしわが深くなり、一気に老けこんだ。 あれは不幸な出来事だった。 過去との時空間の繋ぎ目に敵が紛れ込んでいて、二人を切り捨てたのだ。 孫娘の姫さんが生きていたのは、異変に気付いた他の審神者たちが間に合ったから。 それ以来だ。大将の孫馬鹿が輪にかけて酷くなったのは。 だから余計、新入りをそばにおくのは珍しいと思って声をかけたわけだが まさか、和泉守と所縁があるとは驚いた。 「和泉守には言ってんのかい?」 「いやあ…言わないほうが運命的だろうからね、言ってないよ」 「運命的…?…おいおい、それってまさか」 「はは、薬研は聡いな」 [ LIST / TOP ] |