気づいて
「…歳三、耳を貸して」

「?…どうした珠緒」


真横に座る彼の肩に両手を置いて、耳元に口を寄せた。


「さっき、黒猫を見たの」

「…それで?」

「…別に、それだけだけど」

「……落ちどころか、中身もない話だな」

「別にいいじゃないの。あえて言うなら猫が可愛かったわ」

「それを耳元で話す意味はなんだ」

「…気分よ。嫌ならやめるわ」


少しくらい察してほしいと思いながら離れようとすれば腰を引き寄せられ

身体が密着して、思わずこわばる。


「嫌じゃないが、男は単純だ…こういう真似をしてもいいんだと、期待するぞ」


まっすぐに落ちてくる意地の悪い視線に、心臓が強く脈打つ。

ああ、私の構われたいなんて気持ち、わかってたわねこの人は。


「…いいわよ…今日だけね」

「素直じゃないな」

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