一つの終わり
蕾すらついていない桜の木に寄りかかる。

身体がひどく重い。

これが死ぬということなら、確かに前世のことを誰も覚えていないわけだ。

こんな感覚、忘れたいもの。


「…とし、ぞ…さん…」


ああでも、あの人のことまでは忘れたくないわ。

私にとって、唯一だと思えた殿方だったんだもの。

無茶はなさってないかしら。怪我はしてないかしら。

生きていて、くださるかしら。

今生で私は、幼なじみという特権で背中を見つめることしかできなかったけれど。

来世でまた会えるのならば、今度は隣をーー。


***


残るはこの北の地、函館だけ。

ひとり、こんなところまで来てしまった。


「…(珠緒…)」


昔馴染みの女は、会津にて薩摩訛りの兵にやられた姿が確認されたのが最後で

遺体はついに見つからなかったと報せが来た。

きっと誰も見ていなくとも、あいつは誰にも恥じぬ死を遂げたんだろう…だが…


「珠緒、なぜお前が死んだんだ…」


お前宛の遺書に、ようやく言いたかった全てをぶちまけられたのに。



(俺の珠緒までもを手にかけた薩奸など、全員生きる価値はない)

(…ねえ、ここはどこ?あの世なの?)

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