「死ぬううう〜!!」


コビー君の叫びに、目の前の現状に引き戻され、倒れた彼を抱き起こす。

それを見てゾロさんも安心したように息を吐き出した。


「生きてたか...」

「大丈夫だべコビーくん、痛いでしょうが気をしっかりもつだ!そこなら人は死なねぇがら...」


しかし、彼らにとっても私たちにとっても、こちらに気づかれたのはまずい状況なのは間違いない。

ゾロさんもその状況に気づいていたようで、私とコビーくんに早く逃げろと促してきた。


「でも...」

「ぼ、僕は彼の縄を解かなきゃ...!!アーニャさんは、に、逃げてください...!!」

「!コビーくん...」


たしかにこの場を立ち去ることを、私には迷っている暇はない。

私がここで正体を気づかれずここの一般兵さんたちやモーガンさんに殺されて死ぬことになっても

正体を明らかにして彼らを大々的に逃がすことをしても、大問題に発展してしまう。

私は自分の立場がある以上、我が身と仕事をなによりも軽んじることはできない。

...それに、これはなんとなくなんですが、私の権力という力で解決することを、飛び込んで行ってしまった彼は...ルフィさんは、望まない気もする。

だから、今の最善は...


「...わかっただ。ここにいても足でまといだからしょうがねぇね...ただ、お医者様を呼んどくから絶対帰ってくるんだべよ!」


柔らかくコビーくんの頭をなでてから、私はゾロさんを一瞥して街に向けて走り出した。

薄情な姿かもしれません。

ですが、私の動くべき時は良くも悪くも事態の終わった後にある。

今はそのために堪えましょう。


***


「おいアーニャ!連絡取れねえと思ったらどこ行ってたんだよ!」

「!...ジャスミンちゃん」


医者の手はずを整えてから、私は人知れず宿屋に戻っていた。

衣服を整え、化粧を薄く乗せ直していると、支部へと私の遣いとして送り込んでいた部下の女の子のような男の子が、背後の扉を開けたのがドレッサーの鏡越しに見えた。

その手には、不正やら圧政、横領など汚職の証拠だろう書類が握られている。

ルフィさんがいきなり突撃して混乱した中だっただろうに盗み出してきたのですね。本当によくできた子です。

思わず印象を与えるための、赤めの紅を塗り直した唇で笑みを作る。


「ジャスミンちゃん、証拠はありがとうございます。ですがお分かりかとは思いますが、今し方色々と状況が変わりまして...」

「あー...なんか下地を作った作戦がめちゃくちゃになったのは理解してる」

「それなら良かった。」

「...終わるまで静観でいいのか?」

「はい。...万が一彼らが負けることがあっても、証拠は出揃っている以上、私たちの仕事に不備が出ることはありませんから...冷たい話ですけれど」

「...了解。そのあたりは、アーニャ...いや、アヤ情報伝達部長の判断に任せるぜ」

「...ありがとう、ジャスミンちゃん」


"万が一、彼らが負けることがあっても。"

そうは言いましたが、彼ならばやってくれるはず、とそう何故か思うのも事実。

ただ、信じたいと思えたその人たちを、打算の中に入れてしまうのは胸が痛むけれど、それも私の遂行するべき仕事なのだと蓋をしめ、固く組んだ両手を胸元につけ、目を閉じた。


本当の、私は

(...良い結末を祈りましょう。彼らがここで死んでしまうのは、私はどうしても惜しいと思うので)

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