「あれは...本気みたいですね」
「基地に乗り込むつもりかよ...バカかあいつは...!!」
ルフィさんを追ってゾロさんの元へとやってくれば、ルフィさんはゾロさんを開放するために1人で基地の方へと行ってしまった。
「...お前は、あいつの連れか?」
「まあ...一時的にだけどもそうだべ。名前は、アーニャっていうべ」
「ほっといていいのかあいつ」
「んー...今のところは」
濁すように笑って返す。
ゾロさんは、どうやら私をわからないらしい。
まあ、あの時とはまた違う姿ですしね。
「...?どうした」
「ううん、なんでもないべよ...ルフィさんなら、まあ平気だべさ」
姿を偽ってわざわざ別の目的のために外部から潜入している今、軽率に騒ぎの中に飛び込むのは得策ではないのです。
私が姿を表せば、一瞬で海軍の注目はこちらに向くでしょうが、私はあくまで海軍側。
いくら気に入っている、気になるからという理由で、海賊を目指している子の海軍基地への侵入の手助けをする真似はできない。
してはいけない。
それに今姿を表せば、私の監査という職務における優先事項にヒビが入りかねない。
「(だから申し訳ないけれど、今私が基地に乗り込む彼にできることはない...ですが、)」
私の勘がちゃんと働いているなら、きっと彼はこの状況をなにかしら自分の力で覆してくれる気がする。
小さな期待を胸に海軍支部の姿を見上げてから、ゾロさんに向き直り、小さく笑いかけた。
彼を手助けできない代わりに私はせめて、海兵の規律に厳しい自分には目をつぶって頂き、私の正義を行おう。
「ゾロさん、少し動かないでほしいべ。(今のうちに縄を...)」
訝しげなゾロさんを横目に、縄に手をかけようとした時、背後から慌ただしい足音と名前を呼ぶ声。
「アーニャさん!」
「あら...コビー君」
「なんだまたお前らの連れかよ」
「まあ...そんな感じだべな」
また増えたと言わんばかりの声音に、苦笑いをしてから走ってきたのか息を切らしているコビー君に向き直る。
「はあ...はあ...あれ、ルフィさんは?」
「ああ、彼なら...」
「海軍基地の方に向かったぜ。俺の刀をとってくるってな」
ゾロさんの言葉にコビー君は酷く驚いたような声を上げた。
まあ、普通ならそんなことをやる人そうそういませんしね。
「またムチャクチャなことを...!!」
「本当だぜ。何者なんだあいつは」
「さあ...?そげぇなことより、縄を今のうちにほどいてしまうべ!」
コビー君と頷きあってもう一度それぞれ縄に手をかけ直すと、ゾロさんが声を荒らげた。
「俺に手を貸せばてめェらが殺されるぞ!」
「...うん、そうかもしれんべなあ(そう思われますよね)」
「そうかもってお前な...!」
「あなたに捕まる理由はないはずです!!」
煮えきらないような私の曖昧な返事に、更に言葉を荒げようとしたゾロさんの声を遮ってコビー君がはっきりと言葉を口にした。
「ぼくはこんな海軍見てられない!!」
強い言葉に少し手元を止めて、彼の横顔を見る。
真剣な、必死な横顔に、穏やかそうな彼の内面の純朴さと、気高い強さを見た気がした。
「僕はきっと正しい海兵になるんです!!ルフィさんが海賊王になるように!!」
...そう、そうでしたか。
そういう高い志を胸に、この子は行動できる子なのですね。
こんなにも強さを秘めた子が、新たに海兵を目指してくれているのですね。
ここの支部ひとつ見て、想いが変わるような小さな情熱ではないのですね。
何故海賊...しかも海賊王を目指すルフィさんと行動を共にしていたのかはわからないけれど、彼の言葉につい瞳が柔らかくゆるんでいく。
その刹那、聞き慣れ過ぎた銃弾の抜ける音と共にコビー君が赤を散らして横に倒れた。
「!?コビー君ッ!!」
横に座り込み急所が外れていることを目視して、傷の角度から狙撃手を探す。
居た。
海軍支部の屋上に、そのよく知っている身内の姿はあった。
遠くてもよくわかる。
「(モーガン大佐...やはり...!!)」
海軍支部を腐らせ、罪無き者を苦しめ、民衆の平和な生活を脅かした事実は、この耳と目に全て焼き付いた。
もはや言い逃れは、させませんよ。
結末はすぐそこ
(現行犯逮捕できるとは、やはりついてきて正解でしたね)
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