少し支部からの定期報告が最近怪しかったという理由で

東の海にある、シェルズタウンに自分の身分を隠して旅人として潜り込んでから1週間。

本部を出てから数えたら、すでに3週間を過ぎようとしている。

そのかけた時間の分、いろいろなことがわかった。

モーガンさんとその息子さんのヘルメッポ君が権威を笠にきて勝手気儘にやり、島民を苦しめていること。

流石に、狼を放し飼いにしていたという話を島民の方から聞いた時は驚いた。

そしてその狼に襲われかけた少女を助けるために狼を切って、支部で磔にされている青年の話。


「(定期監査員として遣わせたジャスミンちゃんによれば、その人はゾロさんだと聞きましたし…)」


確かに彼は悪名は高いですが、今回の件に関しては完全に不当逮捕でしょう。


「(…やはり、来て正解ですね。ジャスミンちゃんが今日、着服などの証拠を持ってきてくださるはず…)」


思考を巡らせながら鏡と向き合う。

髪のサイドにエクステをつけ、メイクを甘く可愛らしい印象を与えるものに

口紅もいつもよりキュートな、若々しい色を引く。

服も少しくたびれた動きやすく、素朴な服。

口調だって変えています。

これが潜入用の私、旅人アーニャの姿。

鏡の前でくるりと一度回ってチェックしてから、部屋を出た。


「(とりあえずジャスミンちゃんが来るまでは、アーニャとして過ごしましょうか)」


***


「アーニャちゃん。あのテーブルに料理持ってってくれる?」

「あ、はいですだ」

「いやあ旅の人だってのに毎日悪いね」

「こっちこそ、一時的でも雇ってもらえてこっちこそありがてぇべよ」


にっこりと店長さんに返して料理を運ぶ。


「どうぞ」

「あっ、ありがとうございます」

「おお、んまそー!」

「うふふ…ゆっくりしていくべ」


どちらも初めて見る顔のお客様だから、多分違う島から立ち寄ったのでしょうと結論付けて、別の仕事に戻ることにする。

しかし、なんとなく気にはなる二人組だったので、耳だけは傾けておくことにした。


「(なにか面白い話が入るかもしれませんしね)」


食事を始めた音を聞きながら、テーブルを拭いた。



運命は交わった

(動き出していた運命に、私はまだこの時は気づいていなかった)

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