『アヤ、いつ帰ってくるのかな?可愛い同僚がいないと寂しいよ』
「うふふ…クザンさんたら、連絡をしたらそればかりではないですか」
小型の船に寄り添うように飛ぶ鴎の鳴き声を聞きながら、本部と繋いだ電伝虫さんから聞こえる、ため息交じりの言葉に笑いながら返す。
『本当のことだからね…会議に出る気もなくすよ』
「それは昔から、私がいてもいなくてもでしょう?」
『あらら…随分と手厳しいこと言うようになっちゃって…でも、あんまり長く外で遊んでるようなら、迎えに行くことになるよ』
「ちゃんと帰還予定日までには帰りますから、大丈夫ですよ…それに、私に仕事中の息抜きの仕方を教えてくださったのは、クザンさんではなかったですか?」
少しだけ意地悪に笑って小さな反撃をすれば、電話の向こうで押し黙るクザンさん。
余計なこと教えちゃったか。
そんなぼやきが聞こえそうな沈黙に、ふふと声が漏れる。
『…悪いこと言うアヤも可愛いけど、ちゃんと俺が帰還を焦らせる理由もあるんだよ。わかってんでしょ?』
「グランドラインから落ち延びた海賊さんたちの幾人かが流れてきている可能性がある…それは聞き及んでいますよ」
『だから俺は心配してるのよ。グランドラインの序盤から逃げ出したような海賊なら、アヤでも大丈夫だとは思うけどね…万が一ってあるかもしれないからさ』
俺はアヤを心配してるんだよ。
離れていても変わらない、クザンさんの甘やかしてくる耳心地のいい言葉に、思わず緩んだ口から小さく笑い声が漏れる。
「クザンさんは過保護なんですから」
『過保護は君の保護者気取りのサカズキでしょうよ。俺はひとりのかわいいお嬢さんに?紳士として言ってるの』
「ふふっ、お気持ちはありがたくいただきますね」
『…冗談じゃないんだけどね』
「わかっていますよ。クザンさんは、優しい方ですから…でもちゃんとあともう数週間で帰還しますし、信じて待っててください」
『…はいはい。ローグタウンについたらまた連絡くれる?』
「クザンさんにじゃなくて本部に、ですけどね。勿論連絡しますよ」
『つれないねえ…でもアヤの声聞けるの待ってるよ』
はい、また、と簡単な返事を返して受話器を置く。
甘く、もったりと喉に残るようなクザンさんの大人の重さを感じる言葉を飲み込もうと、ふ、と息を吐き出す。
「アヤ、連絡終わったか」
「ジャスミンちゃん…はい、今しがた」
「こっちまで胸焼けしそうなあいつの台詞が聞こえてきたぜ」
嫌そうに肩を竦めるジャスミンちゃんに苦笑する。
「そんな言い方はよくないですよ…クザンさんは、女性をほうっておけない方なだけです」
「…そうか?(あれは優しいって話じゃねえと思うんだがなあ)」
「それより、そろそろバラティエにつきますね。今はお料理を楽しみにしましょう?」
過保護なクザンさんからには悪いですが、少しくらい寄り道しても許されるだろうと、言われたことには蓋をして、大好きなレストランに思いを馳せることにした。
真綿で首が締まらぬように
(お久しぶりで…あら?なんだか荒れてるご様子…?)
(おう、どこの誰かと思えば海軍本部のアヤ嬢じゃねえか。悪いな、こんな状態でよ。修理が間に合わなくてな)
(ゼフさん…!なにかあったのですか?)
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