熱のせい
押し倒されて、なんだかぼんやりする。
喉にも違和感があるし、身体が感じる倦怠感。
頭がふらふらして、うまく考えられない。
嫌な予感がするけど、長いキスをされたせいだ、と一人完結しようとしたところで、私の額に手を当てる目の前の彼。
「ラウラ、風邪引いてるじゃあないか」
「ふえ…?なんで…?」
「いつもより口内温度が2度ぐらい高いじゃないか、キスしただけでわかるよ」
貴方以外わかるわけないでしょ、という私のつっこみより早く、彼は私から離れて毛布をかけてくれた。
珍しく欲望に走らない姿にちょっとだけ、あっけにとられていると、私の頬をメローネの手が撫でた。
「したかったけどお預けだな…風邪の君は抱けない」
「…うつったら困るもんね…」
「いや?ラウラの風邪なら、うつるのは大歓迎だよ。だけどラウラに無理はさせたくない」
「…いつも無理させるのに」
「いつもは気持ちよすぎて苦しそうなだけだろ?でも今回は体調が悪いから君が苦しいだけだ。お互いに楽しめないセックスなんてのはクソだからさ」
よくわからない自論だが、手から伝わる私より低い体温が気持ちよくて、やっぱり熱があったんだなあと気づく。
はふ、と乾いたようなひりつくような喉で小さく息を吐き出した。
「大丈夫かい?」
「大丈夫…だから、帰っていいよ。いられたらほんとにうつしちゃうかもだし」
「嘘つきだなあラウラは。本当は帰ってほしくないくせに。明日もしかしたらもっと悪くなるかもしれないし、俺が看病してあげるよ」
「逆に不安だからいらない」
手をのけようとすれば、そう言わずに、と手をにぎられた。
「大丈夫。早く治るようにうまく看病するよ、俺のラッテ」
「その呼び方やめて…それに早くえっちなことしたいからでしょ」
「勿論。だけどラウラは案外寂しがりやだから、悪くないだろ?」
「…………そうかもね」
握った私の手に甘くキスをするメローネはいやらしいのに、何故かただ、ほっとした。
きっとこの感情もなにもかも、上がりだした熱のせいだろうけど。
「…風邪気味のラウラはディ・モールト素直だね。俺のことやっぱり大好きじゃないか」
「熱と、看病してもらうのが久しぶりだからよ」
「それだけ?」
「……それだけ」
だから、特別な感情なんかじゃあないの。
この手をメローネに離してほしくないなんて、そんなこと思ってるはずはないの。
end
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