よく晴れた夏の日に
よく似合う麦わら帽子と、メローネの爽やかな笑顔だけ見たら、きっと何人かの女の子はすぐ落ちただろう。
だけど、
いつもの服は脱ぎ捨ててきたらしい、海パン一枚の姿に、抱えられたふくらまし済みの浮き輪。
その背後のガラス越しに見える通りには、勝手に借りてきたんだろうなと予想がつく、ギアッチョさんの赤いオープンカー。
頭がいよいよ暑さでやられたらしい。
「ラウラ!海行こう!!」
「一人で逝って」
「もーー遠慮しないで!!!俺がイく時はいつでもラウラと一緒だよ!!!ジャポーネのゲームの『◯ロといっしょ』みたいに!!」
「そんなアダルトな匂いしかしない『ト◯といっしょ』はごめんなんだけど」
「わーお!俺のセリフの変換まで汲んでくれるなんて以心伝心かい!?」
「メローネだからだけど」
「俺のことそんなに理解しててくれて感激だな!!」
だめだ、やっぱり同じイタリア語を理解できる人種じゃない。
ため息をついて、無視をしようと背を向ければ思い切り後ろからお腹に腕を回されて持ち上げられた。
「捕まえたよ!さあ行こう!!」
「やだやだ離して!!離しなさいメローネ!!」
「ラウラに似合いそうな水着もちゃんと買ってきたからね!!」
「いらないよ!学校指定の水着しか着たことないし!」
「だからこそさ!俺はラウラのたくさんの初めての男になりたい!!」
「そんな浮かれたあんぽんたんの姿で言われても」
「じゃあパーカー羽織ったらいい?」
「………はあ…その浮かれた格好やめて。こそしたら行ってあげる」
ためいきをついて抵抗をやめれば、ますます嬉しそうに抱きしめてくるメローネに、少しだけ笑みがもれる。
「(…子供みたいでかわいいかも…)」
「ラウラ身体むちむちだね」
「離して」
やっぱり前言撤回。かわいくなかった。
***
「…それでカプリ島?」
「うん、カプリ島。たまには遠出デートもいいだろ?リゾートなら水着で歩いてても大丈夫だしね…その水着似合うよ、俺の見立てに間違いはなかったな」
「ビキニにパレオなんて初めてだわ…」
「ラウラは身体を出したほうが映えるよ、スタイル抜群なんだから」
「…むちむちって言ったくせに」
「そのむっちり感が最高なんだよ」
赤くなりそうな頬を背けて、買ってくれたばかりのリモーネのソルベを口にした。
フェリーに乗り込んで、やってきたのはナポリの近海に浮かぶ離島、カプリ島。
リゾート地として有名だけど、来るのは初めてかも。
ソルベを舌先で溶かしながらぼんやりと考え、海岸を歩いていると、メローネが小さく笑った。
「青が似合うなあ、ラウラは」
「?」
「広い空と深い海の交わる青い水平線が、輝いて見えるようだよ」
「…なにいきなり変なこと言ってるのよ」
「ふふふ、汚したいくらい神秘的ってことかな!」
「かえっていい?」
「だめ。せっかくカプリ島まで来たんだから楽しもうよ。青がよく似合うラウラにちなんで、青の洞窟とかさ…どうせ行ったことないだろ?」
「メローネは行ったことあるの?」
「俺もないよ」
「ないんじゃないの!」
あるみたいに言ったくせにと言えば、行ったことあるとは言ってないとあっけらかんと言うメローネ。
吹き出すようにお互いに笑う。
もう、ほんとにおかしな相手だわ。
「さあ行こうぜラウラ。船が出る港は向こうだ」
「船のチケットとれるかしら?人気スポットでしょう?」
「大丈夫だよ、そんな可愛い心配しなくても。俺がなんとかするから」
根拠のない言葉に小さくまた笑って、差し出された手をとった。
end
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