For you
『メローネ、ちゃんと殺せました』
「お疲れさん。ならもう、消えていいぜ」
確実に消したことを確認して、ベイビィ・フェイスの息子を削除するボタンを押す。
これで俺の今日の仕事は完遂。これにて任務完了だ。
まさか自分の妻を食った我が息子に殺されるのが、自分の最後とは標的も思わなかっただろう。
まあ、それ自体はどうでもいいことだ。
ただ、妻がいたということは女物の不要になったものが沢山あるはずで、
「さて…俺のかわいいかわいいラウラに似合いそうなのとか喜びそうなもんはあるかな〜」
盗むわけではない。盗めば足がつく危険性がある。
だから、一時的にラウラを喜ばせるために拝借するだけだ。
金は使わなければ哀れな紙切れでしかないのだから、ばれない程度に頂いていくけど。
外から窓の方を見上げて、すっかり人気がない、静かになった部屋に忍び込み、クローゼットを漁る。
「うーん、ラウラに似合いそうじゃあないなあ。色が派手すぎる」
ラウラにはもっと清潔で清楚な暴きがたい感じが丁度いいんだ。
硬い禁欲的なまでの処女性の中に閉じ込められた、淫らさをじわじわと開いていくのが楽しみだってのに!
「まったくもって俺のラウラのことがわかっていないな…ん?これは…」
奥の奥の方に見えた白いレースを引きずり出して、その正体に俺は思わず目を輝かせた。
「これはウェディングドレスじゃあないか!」
少々古臭いが悪くない!逆にアンティークのような価値がありそうなデザインだ。
彼女からはこれを拝借していくとしよう。
安心してくれ、使ったらちゃんと後日焼き捨てて返却するからな!
「(じゃあ俺はあれを借りてこなくちゃあならないか!)」
ヤクでもキメたようなハイな気分の今の俺を止められるものなんていやしないだろう。
ラウラ、サプライズを待っててくれ!
***
「んー…」
「起きた?ブォンジョルノ!ラウラ!」
「…めろぉ、ね…?」
ふわふわしてるような、そうでもないような気分で瞼を開けると、目の前にはにこにこした、メローネ。
なんか変だ…非常に違和感を感じる。
あ、着てる服が違うんだ。やけに上物の生地でかっちりして…
「、タキシード…?」
「そうとも!さあ、自分の格好も見てごらんよ!」
また寝てる間に勝手になにかに着替えさせられ抱き上げられていたらしいことを理解し、
鏡の前に私を横抱きにしたまま連れていったメローネに降ろされ、眠たい目を無理やり開けて鏡を見つめる。
そして鏡の中の自分とメローネの姿に、思わず目を見開いた。
「ふ、わあ……!」
真っ白なレースがふんだんにあしらわれたアンティークの高価そうなふわふわのドレスに身を包んだ自分と、
真っ白なタキシードがかっこよすぎて直視できないくらいのメローネ。
「どうだい?ウェディングドレスだよ!」
「素敵…だけどなんで…」
鏡から視線を外し、タキシード姿のメローネを見上げれば、幸せそうににっこりと笑う彼。
ああ、変態なのに美形って得だな。
タキシードがキマっていて、すごくかっこよく見えてしまう。
いつもと違うメローネにぽへーとなりそうなのは、私が特別惚れているからとかじゃあなく、女なら誰でもそうなると思う。
「ラウラを喜ばせたかったからね、借りてきちゃった」
「よく貸してもらえたね…」
「はは、もうすぐに了解もらえたよ。かわいいかわいい恋人のためだって言ったらさ!」
「さ、さらっと妄想を事実にしようとしないでよね!」
ドンと軽く胸を叩けば、メローネは褒めてもらいたい犬みたいににこにこして気にもしない。
「あは、まあいいじゃないか。嬉しいサプライズだろう?ラウラ?」
「嬉しい…けど…」
「けど?」
「なんか、やっぱりこういう遊びで着るものじゃないわ…もう脱ぐね」
申し訳ないけれど、と鏡を見ながらチャックに手をかける。
「!気に入らなかったのかい?!それとも俺がタキシードなんて似合ってなかった!?」
「…違う。メローネはとても似合ってるに決まってるじゃない。そうじゃないの」
「じゃあなんで喜んでくれないんだい?!ラウラにもすごくすごく似合ってるよ!まるであつらえたみたいだ!!」
「ありがと…でも似合う似合わないじゃない。将来を誓う本当に大切な人のためにするものだもの。私たちじゃ、ちぐはぐなのよ」
「…そっか……………チッ、遺品すら使えねえ奴らかよ…」
「?なにか言った」
ぼそりとメローネが後ろでなにか言った気がして、振り返るけど、少しだけ残念そうな笑みを浮かべてるだけで首を横に振っただけだった。
気のせいかしら?
「なにもー?そうかそうか、ラウラが気にくわないなら仕方ないな。もっと喜ぶものを買いに行こうよ!そうだ!新しいケーキ屋ができたんだ!!そこがいい!!」
「えっ私メローネとデートなんか…」
「いいからいいから!さあ、こんなドレス脱いで!この前買ってあげたワンピースにしよう!さあ、クローゼットに行って!ヘアアレンジも変えよう!」
「えっちょ、メローネ!焦らせないで!」
手早く私からドレスを脱がせたメローネが下着姿の私の背中を押す。
こうなったら私の言うことなんて聞かないだろう。
もー、とため息をもらしながらも、ワンピースを探すことに専念する。
「(ちょっと怖かった感じするんだけど…それも気のせいかな?)」
「(全然駄目だ…ラウラが喜ばないってわかったら、もうぼろ布にしか見えねぇ)」
end
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