髪のお世話
するすると慣れた手つきでほどかれていく自分の長すぎる髪と、それをほどく人物を盗み見る。
「ラウラ、またちょっと伸びたね」
「そうかな?」
「うん、5oくらい」
「なんでそれくらいの差で伸びたのわかるの」
「ラウラの変化なら一発でわかるさ。伊達にストーカーしてないからね」
「自慢げに言われても」
軽口をたたきながらも、霧吹きをかけられて少しだけしっとりした私の髪の毛にしっかり絡む、メローネの長い指。
地面につきそうなほど長い先端の方にまで、優しくブラシがかけられるのを見ながら、この行為にも慣れてきた自分に対してため息を吐き出す。
メローネは、私の身のまわりのことを全てしたがる。
食事は私に作ってほしいらしいけど、私の身だしなみとか身支度とかは、全てやりたがる。
髪の毛のケアも、その一つだ。
私を綺麗にして、お嬢様みたいに扱うのが楽しいらしい。
そんな行為のなにが楽しいのかわからないが、メローネが私の髪を愛おしそうに、丁寧に扱うのを見ているとむず痒い気持ちになる。
「やっぱりラウラの髪は犬の毛みたいで気持ちがいいね」
「それ褒めてる?」
「褒めてるよ。まとまりやすいし、柔らかくてアレンジしやすい」
「…でも長すぎるし、ちょっと切ってもいいんだけど」
「切らなくていいよ。切るのは傷んだ髪と枝毛だけでいい。髪の手入れが面倒なら俺が全部してあげるから」
ちゅ、と髪にキスを落とされる。
メローネの異常なまでの私に対する献身に、嫌悪感より恥ずかしさが勝つようになったのは、何時からだろう。
熱くなる頬を、抱えたクッションで隠す。
「…このままだと私、ダメにされそうだわ」
「ダメになっていいよ。俺なしで生きられないラウラなんてディ・モールト最高だ」
「メローネがいなきゃ、生きていくのが難しくなるなんてごめんよ」
「ふふ、つれないなあ。そういうとこもディ・モールト愛してるよ」
「…メローネって、やっぱり変」
「恋に正気な男はいないさ」
end
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