氷の守護者




「(こんなことさせたい訳じゃないけど、)海兵、なんだもんなあ…」


遠くからでも的確に標的の頭を吹き飛ばす銃声を聞きながら、一人ぼやく。

銃声の音源はアヤだ。

人を殺したり、争いを嫌う穏やかな愛しい子。

細く白い指先は一切の穢れを知らないようなのに、引き金の引き方をあの子はよく知っている。

殺す敵のために、スコープ越しに愛を込めた涙をいつも流すことを俺はよく知っている。

なにもしなくていい、とどこまでも歪な姿に腕を引いて抱き込んでやりたくなるんだけど

穏やかで優しいあの子に引き金を引かせたのも、涙を流させているのも

俺たちが仕向けたたことだとわかっているから、どうにもうまく言葉にすることができない。


「(いい歳してなにもたついてるの俺)」

「クザンさん!戦闘中に余裕そうにしてないでください!」

「あ、ごめんごめん」


面倒だけど今は考えるより、早く片付けてしまおうと息を吐き出した時、ざくりと嫌な音。


「あ、ッ…」

「!ッ、アヤ!!」


短い声の後に倒れる小さな身体。

肉を割くような音は聞き慣れているけれど、アヤからなら別だ

アヤの身体に傷がついた音だと認識した途端、だるかった気持ちも吹き飛んだ。


「アヤ大丈夫!?」

「は、い…っ…ちょっとかすめただけです…」



どんな血より尊く感じられる、アヤを形作る一部が零れていく。

ただでさえ傷つけているのに、これ以上アヤが傷つけられるのは見たくない。

勝手だろうがなんだろうが、それだけは誰であろうと許すことができない。

足元から凍りついて、自らの冷気に吐く息が白くなる。


「…可愛いアヤの身体に傷をつけるとか…適当に片付けようと思ったけど、ちょっと本気出すよ」


アヤを傷つけて、許されると思うなよ。


***


「クザンさん…やり過ぎですよ」

「…海賊だからあえて生かす必要はないよ。それに、アヤの怪我の治療を早くやるなら、全員凍らせた方がすぐ済むし」


凍りつかせた船。

砕いた無数の氷の破片が散らばる中、アヤの腕に包帯を丁寧に巻く。


「でも…一人残らず砕かなくても…」

「…俺が怖かった?」

「そういうことではありません…私のために、貴方に無駄な殺しをして欲しくなかったんです」


包帯を巻く俺の手に、子供のように小さな手が重なる。

俺を憂うような目は、やっぱり悲しいくらい優しくて愛しい。

怪我をしたのも、一番傷ついてるのも自分だろうにさ。


「ごめんねアヤ、でもアヤが傷つくのが俺は一番嫌なんだよ」

「……大事にしようとしてくれてるのは、感謝します」

「その言葉だけで、十分嬉しい」




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さや様、リクエストありがとうございました!
リクエストからちょっとずれてしまった気もしなくもなくて、申し訳ない気持ちでいっぱいですが、よろしければお納めください…!!


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