非凡。故に求めたのは…
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“よくあのイカレ科学者に話しかけられんなぁ”



「暦先生ー包帯もらいにきましたー」


「勝手にとっていきな。いま手が離せないから」



開発局局長室兼、医務室へと入れば


ついこの前、第七師団の副団長にイカレ科学者と称されていた


春雨の開発局局長にして、医務室の室長の暦先生が


見るだけで頭が痛くなる公式の羅列と、にらみあいをしていた。


その後ろ姿に声をかければ、振り返ることもなく帰ってきた返事のとおり、勝手に包帯をいただく。



「「・・・」」



そのままさっさと帰ろうと思ったが


副団長、つまり阿伏兎に言われた言葉が思いだされ、ちらっと横顔を見た。



「(たしかにイカレてはいるけど・・・別に普通だしな・・・朔夜さん関連以外じゃ)」



まじまじと見ていると、真剣に液体を見つめる暦先生の目の下には隈ができているのに気づいた。



「あ、また暦先生休んでない」


「ん?…ああ、忘れてた…」


「また寝てないんですか?」


「まあね・・・・・・気づいたら眠たくなってきた・・・君のせいだよ、よもぎ君」


「Σえっ!!」


「・・・・・・ふっ・・・冗談だよ・・・」



くつりと細い目をさらに細めて、馬鹿にしたように

でも少しだけ穏やかに笑った暦先生に思わず時がとまる。



「・・・」


「・・・?なに」


「え、あ、いや・・・珍しい笑い方したなって・・・そんな風に笑えるんスね・・・」



思った通りの事を口にすれば、不機嫌そうに鼻を鳴らされた。



「失礼なことを言うね・・・最初から俺も、今の性格だったわけじゃない」


「え」


「・・・なにかを愛でていた、自分がいたのさ・・・今思えば、馬鹿馬鹿しいだけのものだけどね」



珍しく自嘲するような笑みを浮かべた暦先生をみて


一般人で何ごともなく暮らしてきた私には決して理解できないものがあったんだと、そう感じた。



「(でもきっと先生が愛でていたのは――・・・)」



いわゆる普通の人生を送った人間なら誰しもが、普通に持ってるものなんだろうな・・・



「・・・・・・喋りすぎたね、さっさと戻りな。邪魔だよ」


「あ、はい・・・あの、暦先生」


「今度はなに?」



さっきの自嘲の表情はどこへやら、うっとおしそうに振り返ってきた暦先生に、へらっと笑って告げる。



「あとで、肉まん作ってもってきます」


「・・・カラシ、忘れないでよ」



少し面食らった顔をしてから、先生は短くそう返してから、ふいっと公式の方へ向き直った。


さて、お坊ちゃんの口に合うようにつくらないとね。



ーー非凡。故に求めたのは…ーー
(当たり前が欲しかった)
(当たり前はなかった)



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