互いの岐路の先はまだ知らず
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「朔夜さんは、」


「ん?」


「…朔夜さんはどうして、あの人のいない世界で、今を生きる者のために生きていけるの?」



小生より幼い彼女、斬ちゃんはそう言った


小生と同じく、義父に魅入られた少女


弔いと称し、人を斬り続ける悲しくも優しい少女


その彼女に、小生がどう理解されているかわからない今


小生の言葉の真意もどう理解されるかわからない


だが、ただ小生はありのままに告げた



「あの人が殺されてしまった世界だから、小生は今のように生きているんだよ」



あの人が小生と銀時に最後に望んだのは、皆を護ること


そして小生はその言葉に対し、行かないで、皆で逃げよう、とはあの人には言えなかった


あの人の笑顔に、小生は笑顔で行ってらっしゃいと返した


戻ることはないかもしれないとは、知っていたのに、予測していたのに


それでもあの笑顔を前に、泣きつくことはできなかった


そして最悪の予期は、予測した観点をこえかねる勢いで、最悪の形で実現した



「あの人が死んだのは小生のせい、なんて思い上がったことは言う気はないがね」



皆を動かし、助けには行けただろう


けれどそれは、無駄死にを多く産む選択だった


だから小生は、皆の命を無駄にしないがため、その道を選択はしなかった


結果として、あの人の娘として小生は


あの人の命より先に、あの人との最後の約束をとったわけで



「だからこうやって、今も生きているのだよ」



何より愛しい命より、愛しい人との約束を選んだのだから


約束を貫かなければ、何のために失いたくないものを切り捨ててきたのかわからない


もう十のために一を切り捨てる選択はしたくない


もうあんな思いはしたくない


もう誰かがあんな思いをする姿は見たくない


けれど何かを切り捨てねば、何も救えないことも小生は誰よりよく知っている



「だからもう、切り捨てられる一は、小生だけでいいと思ったから」



小生はこんな風に生きているんだよ


それだけの話さ、と語り終えれば


少し黙ったあと、斬ちゃんは口を開いた



「…朔夜さんは、一番自由に生きてるようで、一番捕われてるんだね」


「ああ…そうだよ」



小生は、義娘だからね



「…朔夜さんはやっぱりこっち側だよ」


「だねぇ…でもそっち側にならないのが小生が小生である由縁なのさ」



ーー互いの岐路の先はまだ知らずーー
(ただ、彼女の行く果てに幸あれと願う)
(きっと義父もそのために教えを説いたと思うから)
(彼女が彼女として生きてゆけるように)



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