とある雪深い冬島には、遥か昔から伝わる魔獣伝説がある。
その伝説によれば、まだ神がその冬島の地に形をなしていた時代があったそうで
その魔獣もまた、神々と同じ時代を生きたとされる。
鼻や目からは炎を吐き、吐息は猛毒。
下顎を地につけて口を開けば、上顎は天を越えるほどの巨大さ。
ハイイロオオカミの姿を模したその魔獣は、世界を飲み込むと予言されて一度は自由を奪われたが
神々の世が終わる際には解放され、主神を食い殺したと言われている。
その伝説の魔獣の名は…
※※※
「この姿はフェンリルですね…恐らくですが」
「……」
「…いきなり街で火の手があがったからなにかと思ったらァ…コルクちゃんがねェ〜」
どうやら程遠くない本部からも窓から出た火が見えたらしく、他の二人がすぐにやってきた。
コルクはというと、部屋からリビングに出すことに成功はしたが、そのアヤの言うフェンリルの姿のままだった。
「伝説の魔獣…ということは、幻獣種の動物系能力者か…能力なら自分で人間に戻ればええじゃろう」
「弱ったときに何度かこの姿になったことはあるそうなんですが…自力での戻り方がよくわかってないそうなんです…」
「厄介な…」
「コルクはまだ10もいかない歳なんだから仕方ないでしょ」
「おどれは甘いから荷物をかかえるんじゃ」
「人の娘のこと随分な言い草じゃないの」
サカズキの物言いに苛立ちにらめば、向こうも睨み返してきた。
「やめてくださいお二人共!コルクちゃんの前で…」
「……いいよママ…化け物になった私が悪いから…」
「コルクちゃんは化け物じゃありません…大丈夫ですよ。貴女の姿は悪魔の実によるものなんですから…」
恐れることもなく、そっとコルクの鼻の頭を撫でるアヤを見て、サカズキへの怒りを収める。
アヤの言う通りだ。今はサカズキとやりあってる場合じゃない。
「…コルク、大丈夫だよ。そう言う能力あるの、コルクだけじゃないからさ」
「?…」
「そうだよォ〜…君のパパだってほらァ〜」
「え?」
「ッパパ!!」
「ボルサリーノさん!?」
ヒュッと音が聞こえるより早く、頭を蹴り砕かれた…
「ってふざけんなボルサリーノ!!フツーいきなりやる?!間に合わなきゃ死んでたよ!?」
「大丈夫だったからいいじゃねェかァ」
「あ、…ッ…」
ボルサリーノに掴みかかろうとすると、コルクが目を丸くして震えているのに気づいた。
「コルク…?(やっぱ怖がられたかな)」
「っ…う、ぅあああん…!!頭、砕けて…パパが、死んじゃうかと思ったぁぁ…!!」
パラパラと氷の涙を流して泣きじゃくり出したコルクに、あっけにとられた。
「え、そっち?」
「普通は自分の父親の頭、なんの説明もなく目の前で蹴られたらトラウマですよ!なにしてるんですかボルサリーノさんったら!!」
「あァ〜そっかァ〜悪かったねェ〜…ほら、クザンも謝りなよォ」
「え、ご、ごめん…」
これ俺も悪いの?
納得しかねると思いながら、氷の破片にあたらないようにして、真正面からコルクを宥めるアヤを見る。
やっぱり下手なことするより、アヤに任せた方がいいかもしんない。