部屋の中がひんやりして気持ちいい。
暑くてあんなに辛かったのに、今は暑さなんか全然感じない。
身体がおちついてきて、眠くなってきた。
「コルク、眠くなってきたなら寝ていいよ」
「うん…」
パパの冷たい手が額におかれるのを感じながら、目を閉じた。
***
「…ふう」
寝たのを確認してから、冷気で冷やしたコルクの部屋から出て、生活感のある音がするキッチンに向かう。
「アヤ、仕事中に呼んでごめんね」
「いえ、ファナさんたちにあとは任せていい仕事でしたから…それより、コルクちゃんはどうですか?」
「冷やしてあげたら、だいぶよくなったみたい」
「ならよかった…ここ最近、急に暑かったですからね」
一人では不安がつきまとったからと、子供の看病に慣れてそうなアヤを助っ人に呼んだ。
いきなり呼び出したのにも関わらず、高い椅子の上に立って
やりにくいだろう、俺サイズのキッチンで何も不満を言わず、昼ごはんの用意をしてくれてるアヤには頭が下がる。
「でも、ヒエヒエの能力者のクザンさんが父親で、コルクちゃんも幸いでしたね…」
「コルクにはまだ言ってないけどね……あ、手伝うよ」
「え、そうなんですか?…あら、助かります」
「だって全てを凍らせる氷結人間なんて言って、実の娘から怖がられたらいやじゃない」
アヤの隣に並んで、まだ手をつけられていなかったキュウリを切りながら言えば、アヤはきょとんとした顔をした。
「…クザンさんが怖がられるのがいやだなんて…」
「…らしくなくて幻滅?」
「いえ…コルクちゃんを大切に思っているんだなと…父親らしくて、素敵です」
きょとんとしていた顔を破顔させ、アヤ特有の目を細める愛しげな微笑みに、
なぜだか一回り以上年上の俺の方が、子供だったような気さえしてくる。
「……アヤってほんとさァ…」
ミシミシッ!!バキッ!!
「「!?」」
言葉を続けようとした瞬間、コルクの部屋の方から凄まじい音。
「コルクちゃん!?」
「コルク!!」
慌てて二人で部屋に向かい扉を開け放った瞬間、向かってくる燃え盛る炎。
「きゃあ!?」
「!アヤ下がって!!」
アヤを瞬時に後ろに庇い、炎を氷で相殺して、部屋に踏み込む。
なんだか知らないが、娘の無事を確認しなきゃ。
「コルク大丈夫!?」
「!ッこないでパパ!!」
苦しげなコルクの、初めて聞く荒げた声。
それ以上に驚いたのは、コルクの代わりに部屋の奥にいる存在。
体長は俺をゆうに1mは越えるだろうか。
大きな氷の破片を瞳から涙のように零す、長い牙を有した灰色の毛をした狼らしき生き物の姿。
「…まさか、コルク?」
「コルクちゃん、なんですか…?」
「……パパ、ママ…見ないで…」
コルクの声で、その狼は小さく唸った。