「そういえばクザンさん。コルクちゃんのこと、名前で呼んであげてますか?」
「え?あー……呼んで…るっけ?」
「そこはしっかりしてくださいよ」
休憩中にやってきたアヤの質問に思い出そうとするも、気にもとめてないことだから思い出せず放棄する。
するとアヤが、小さくため息を着いてから眉を顰めてきた。
「もし呼んでないなら、ちゃんと呼んであげてくださいね」
「そんな大事なこと?」
「大事ですよ。名前は親が与える最初の愛情なんですから…それに親に名前を当たり前のように呼ばれた幼い頃の嬉しさは、永遠の記憶です」
「……最初の愛情ねぇ…」
ほんと、アヤらしい助言だ。
***
「…コルクちゃん」
「!」
「?コルクちゃーん」
「ッ…」
「ちょっと…コルクさーん?」
「……な、に…パパ…」
執務室で静かに俺の仕事が終わるのを本を読みながら
子供らしからぬ冷静な顔で待ってるコルクの名前を、アヤが言ってたことを思い出しながら呼んでみたら
ひどく驚いた顔をしながら、戸惑った様子でようやく返事を返してくれた。
アヤから聞いた話だと、もっと嬉しそうな顔するのかと思った。
「なんでそんな驚くのよ」
「……だって…いつも、君とかだから…名前呼ばないから…」
やっぱり呼んでなかったらしい。
悪いことしてたかな。
「名前呼ばれたの嫌だった?」
「いやじゃ無い…いきなりで、気持ち悪かったけど…」
「え?それいやってことじゃないの!?」
「違う…その、パパがいきなり呼んできたから…嬉しくて顔がにやけそうな自分が、気持ち悪くて…」
「…!」
なにこの子、すごい可愛い。俺の遺伝子ほんとに入ってんの??
読んでいた本で赤い顔を隠すコルクの姿に、アヤに感じるものとはまた別の、じんわりとした温もりと可愛いという感情にこっちまでにやけそうな口元を抑える。
なんで今まで、名前を呼んであげなかったのかな。
「…可愛いなあ、コルク」
「ッ…パパ、怒るよ…」
「ごめんごめん…でも、これからはちゃんと名前で呼ぶよ」
名前は親が子供に与える最初の愛情ってのは、どうやら嘘ではないようだ。