風呂
広がる花の匂い。

お湯を浴槽に注ぐとぶくぶくと真っ白い泡が湧いてくる。


「…ぶくぶくしてる」

「泡風呂だからね」

「…花の匂いする」

「シクラメンだよ」

「……変なの」


ちょんちょん、と泡をつついていると、後ろからパパに抱えられた。


「気に食わなかった?喜ぶと思ったんだけど」

「…パパが、喜ばせようとしてくれたのは嬉しい」


正直泡のお風呂の楽しさはわからないけど、パパが私のためにしてくれた事実だけがすごく嬉しかった。


「…アヤの影響かな、この殺し文句」

「?」

「まあ、とりあえずお風呂一緒に入ろうか。」

「…もう一人で入れる」

「だめ。コルク一人だと烏の行水になるから」

「…むう」


バンザーイと服を脱がしてくるパパに促されるまま、慣れない家族の付き合いにむっつりと口を引き結んだ。


***


「コルク、機嫌直してよ」

「……」

「俺が悪かったから、ね?」


風呂から上がったあと、俺に背を向けて静かに本を読むコルクに頭を掻く。

不機嫌の原因はコルクの髪を洗ったときに、絡みやすい髪質のせいで

思い切り髪を何本か引き抜いてしまったことにあるんだけど、それで無視は辛い。


「いたかったね、ごめんて」

「……パパとお風呂入るのもう嫌」

「さみしいこと言わないでよ。泣くよパパ」

「……知らない」


…効かないあたり、結構今回は不機嫌か。

仕方ないな、最終手段だ。


「…アイス、」

「!…」

「(反応したな)…今日は俺の分も食べていいからさ」

「………………なら、許す」

「よかった」


いくら大人びた空気をしていても、アイスの誘惑には勝てないらしい。

冷凍庫に走っていく姿を見ながら、可愛いいなあとにやつく口元を抑えた。


prev next

bkm