「コルク嬢、来なさい!」
「…はい」
通常の刀と、身の丈以上の刀。
二本ある内の、通常の刀の柄を握り直したクザン大将の娘である少女は
眠たげな瞳の奥に強い炎を宿して、稽古をつけているモモンガに飛びかかる。
白銀の刀身が遠慮なく風を切り迫るのを、モモンガが弾き返す。
「また一本調子だぞ!」
「ッ…」
刀をいなすモモンガからの指摘に、普段からむっつりとした口がさらに引き結ばれたのが見える。
「なんだ、今日のコルク嬢の相手はモモンガか」
「…ステンレスか。どうした」
「お前と同じだよダルメシアン。休憩がてら訓練の観戦だ」
そう言って隣にきて、同じように壁にもたれた同僚のステンレスは、モモンガとコルク嬢に視線を向けた。
「…流石クザン大将の娘と言うべきか…幼くても戦闘の才能は申し分ないな」
「…ああ、上達が早い」
覚えが早い、と感嘆の息を吐くステンレスに俺もコルク嬢に視線を戻し、同意の言葉を短く紡ぐ。
俺たち中将勢に、訓練をつけるように言われた時は全員目を剥いて動揺したが
こうも吸収が早いと教えがいがあるというのが今の全員の見解だ。
「…そうだ、ダルメシアン。能力の方はどうなんだ?同じ動物系のお前がコントロールを教えていただろ」
「あァ…まだ難儀してるが、少なくとも変身してもすぐ戻れるようになった」
少女なら、短い期間で十分な進歩だろう。
自分の能力を、危険なものだと意識できているからなのかもしれないが
それでコントロールの努力ができるなら、それはコルク嬢の褒められるべき点だ。
「…クザン大将とは違ってだらけない努力家だな」
「はは…違いないな」
「ちょっとちょっと、二人共上官に失礼じゃない?」
「「!?」」
なにとない軽口を叩いてステンレスとくつくつと笑っていると、あいだにあった窓からクザンさんが不服そうにぬっと顔を出した。
それを見て慌て、ステンレスと共に姿勢を正し敬礼を向ける。
「クザン大将!」
「いらっしゃるとは思わず…失礼しました!」
「…まあいいけどね。コルクのが真面目でしっかりしてるのは事実だし」
ポリポリと頭を掻いて、ご自分の娘の勇ましい姿を見るクザン大将の横顔は将校のものではなく
一人の父親としてのもので、最初はこの表情にこちらが戸惑った。
今では微笑ましいと思えるようになったが。
「コルク嬢をお呼びしましょうか?」
「…いや、真剣なコルクの邪魔しちゃ悪いし俺は行くわ。娘の相手、引き続きよろしく」
「ハッ!お任せください!」
窓から顔を引っ込め、ひらひらと手を振り去って行く背に
敬礼を再び向けながら見送ってから息を吐きだす。
「…噂をすれば影、だな」
「全くだ」
父親思いのコルク嬢に聞かれても困ることを言ったと心中で反省し、頼まれたコルク嬢の姿をおとなしく見守ることにした。