「お義父さんは、小生をおいてどこかに行かない?」
私の小さな義娘の朔夜は、たまにここではない、酷く遠い場所を見ているようなことを言う
けして、確かな未来が見えているわけではないはずなのに
行き過ぎた賢さが故に、現在の事象を明確に理解し
先に起こりうることすらも予想できてしまうのかもしれない
たとえそれが、悪いことであろうとも
「…」
そしてきっと、私が今の問いに答えられないことも
この子の頭では、もう聞く前からわかっているのでしょう
「…ずっとここにいて…?小生は、お義父さんと皆がいなきゃ駄目だから…」
背中に不安げによりそう小さな温もりは、他の子供たちとなんら変わらない
けれど、やはりこの子が立って見ている場所や感覚というものは、常人とは違うのです
その違いはきっと、今までもこの先も理解されにくく、何度も朔夜を孤独に追いやるのだろう
私がいない、どこか先の未来で
朔夜はそのすべてを、感覚的に察知している
しかし心はまだ、いくら大人びていても幼い子供
不安など感じず愛されていていい歳なのだ
なのにどうして、こんな幼子が一人感じている不安に堪えられるというのでしょう?
だから朔夜は答えのかえってこないとわかっている疑問を、あえて私に問う
「ねぇ、お義父さん…ずっとそばにいてくれる?小生が、大人になったあとも」
「…そうですね…ずっと、いたいものです」
「……うん…」
答えにならない答えを返す私は、ずるいのかもしれません
けれど、背中越しに伝わる義娘の震えを止めるためならば、私はいくらでもそんな答えを紡ぎましょう
たとえそれが、嘘になろうと
ーー虚ろの問ひになりてもーー
(神というものがいるのなら、なぜ孤独を怖がるこの子を愛したのですか?)
(神様というものがいるのなら、なぜお義父さんが消える未来を考えさせるの?)
((これ以上、残酷なことはないです/よ))
← | top | →