▽ 07
寮のクザンの部屋を出て、海岸に向かった。
海面に映る自分の顔はいつも通りの笑顔。
だが、どうにも心がささくれだっている。
カンパニュラという女とゼファー先生のくっついてるシーンを見たからなのは間違いない。
けど、あんな他人の恋愛ごとをいちいち引きずる女じゃなかったはずだ、私は。
「…(結論から言えばこのイライラはつまりそういうことになるわけだけどねぇ…)」
「ここにいたか、ネメシス」
「…お小言ですか、ゼファー先生」
海に映る自分の顔を眺めたまま、うしろに立ったゼファー先生に返す。
「そうだ、と言いてぇが…今日は違う。最近ようやくお前が少しつかめて来たからな」
「へえ?それは興味深い」
「お前は自由勝手だが、理不尽に相手を害したりはしねぇ」
軽口はいつでも叩くがな。
当たってるだろう、と言わんばかりのドヤ顔が、海面に映り揺れる。
かっこいいのが腹立つわね。
これがクザンなら迷わず速攻ビンタなのに。
「…だから怒らないと?」
「どうせお前からってわけじゃないんだろ。カンパニュラも気にくわねェとやらかすタイプだしな…
だがお前自身のためにも、ああいうことはもうやめとけ」
「……」
「本当に、まだ海軍にいたいんだろ?」
わしわしっと頭を撫でながら言われた言葉に頷く。
海軍にはいたい。
まだ、辞める気はない。
「だったら、我慢を覚えろ。せっかく才能に恵まれてんだ」
「……できるだけは、そうします」
「お前な…そんなに自由にやりてぇなら、自由にやっても文句をつけられねぇ地位になってからしろ」
今はまだ早すぎる、呆れたような宥めるような声。
海面越しに視線を合わせた先生の目は、やっぱり優しかった。
厳しそうで甘い人よね、実は。
じんわりと内に広がるむず痒さと暖かさ。
「(…認めざるをえないわね…)」
この人へ向ける、特別な感情とやらを。
青春の醍醐味(少しだけ手加減を覚えることにした)
(まあそれでもやりすぎと怒られたけれど)
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