▽ 06
びしゃあっ
髪や服、頬を伝って滴り落ちる水。
「…」
「あら、ごめんなさいねェ〜。手元がゆるかったみたい」
明らかに通り過ぎざまに、私の顔面にホース向けてぶっかけたわよね。
白々しい柔らかい態度で、一見暖かに見える冷笑を浮かべた、ドレスの女。
見たことがない相手に、いきなり水をかけられる道理はないわ。
「…」
「ふふ…笑ってないで、早く着替えてきた方がよろしいんじゃなくってェ?シャツ透けてるわよォ〜…?」
甘ったるすぎて吐きそうな間延びした声音を聞きながら、近くで廊下を掃除していた同期からバケツをひったくり、迷わず女にぶちまけた。
「きゃっ!!?」
「…貴女こそ服が張り付いて、まな板な胸がさらに目立ってるわよ」
「なっ!?わ、私を誰だと思ってるのよォ…!!」
「貴女がどこの誰で、年上だろうと関係ないわ。貴女が私に水をかけたから私はかけ返しただけ。これでフェアよ。それじゃ」
バケツを同期のやつに押し付け返してから、これ以上話してもめんどくさいと、さっさとその場を離れるために歩き出す。
すると後ろからヒステリックな罵声と泣き声。
結局なんなのかしら、あれ。
しらけたままちらとだけ振り返れば、ゼファー先生があの女に駆け寄るのが見えた。
泣きついてゼファー先生に甘える女の姿に、ああと納得し、ますます気持ちが冷めた。
「(…くだらない真似するわねえ)」
***
「ネメシス…お前それ…政府のお役人のカンパニュラさんだろ」
「あれが?」
「あれってね……一応お前より上の立場だぞ。確かボルサリーノ先輩の姉だし」
「ああ、だからあんなねっとりした話し方してたの。そっくりね」
「二重で聞かれたらやばいぞ」
馬鹿だろ、というクザンの呆れたような物言いを片耳で受け流しつつ、タオルで頭を拭く。
「…それにお前、フツーその格好で堂々と廊下歩いてかえってくる?」
「…やだあ、下着透けちゃってるーこんなの恥ずかしいー」
「ごめんな。なんか悪寒したわ」
「再生不可能になるまで砕いてあげましょうか?」
わざわざやってあげたのに失礼しちゃうわ。
「でもお前どうすんの?あの人乳ない上に性質悪いらしいよ、乳ないし」
「クザンも多分今の聞かれたら左遷ね。まあ、今回に関して必要以上にケチはつけてこないわよ」
「?なんで」
「お目当ての結果が出たみたいだったから」
なんだそりゃ、と言うようなわかりやすい顔をしたクザンを尻目に
どことなく冷めたまま、濡れた髪を乾かそうとドライヤーにスイッチを入れた。
男女の機微(またなんだか嫌な顔見知りが増えたわね)
(それにあの女、ボルサリーノ先輩の姉なだけあって、絶対腹黒いわ)
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