青春マリンブルー | ナノ


▽ 02


バキィ


「身内に全治三ヶ月の怪我をおわすやつがあるか!」

「教官、向こうから仕掛けてきたから倍返ししただけです。」


すかー


「ネメシス!サボるな!!」

「睡魔との戦いに負けましたー」


ちゅどーん


「あ、やりすぎたわ」

「ネメシスッッ!!!」


…ネメシスを担当し一ヶ月、なんどあいつを怒鳴ったかわからん。

サカズキ、ボルサリーノ、クザンに続いての、相当の問題児。

たしかに、実技座学共に間違いなくトップクラスではある。

能力者ではないが、能力者すら超えるポテンシャルと実力がある。

期待できるホープだが、問題行動も多い。

訓練をサボるわ寝るわする。

単独プレーばかりで、周りと折り合いをつける気もない。

加減をしらんのか、ものを壊す。

正直、ネメシスという人間はまったく海軍という組織向きではない。


「頭がいてェ…」

「あら、風邪ですか?」

「…お前のせいだよ、悪ガキ」


横からかかった声にそう返せば、笑い声が返ってきた。


「ふふ、ひどいですね。建物破壊したのは悪かったからお詫びにアイスコーヒー買ってきたのに」

「…気は遣えたのか」

「遣えますよ。無駄に遣わないだけで」


憎らしい笑顔で、えらくあっさりとした返答。

同時に、コーヒーを渡された。

受けとった紙カップの冷えた温度が、陽光にあたって熱を持つ肌にじんわりと心地いい。

とりあえず礼を言うとネメシスが、隣に腰掛けてきた。


「めんどくさいでしょう、私の相手」

「…自覚が?」

「それなりには。じゃないと私を最初に担当した教官も胃に穴を開けなかったでしょうし」

「(あれはこいつのせいだったか)」


数ヶ月前に入院した同僚を思い出した。


「まあ一応組織に入ったんで、周りと合わせたいとは思わないわけじゃないんですけどね」


意外な台詞だった。合わせる気はあったのか。


「合わせる気があって、どうしてああなる」

「昔からどうしても周りとの歩調があわないんですよね」


世界とも、人とも。

そう告げた変わらない笑顔が、やけに焼き付いた。

思っていたより、こいつはこいつなりに思うところがあるのかもしれない。


「…どうしてそこまで自分を理解してて、海軍に入った」

「あ、やっぱり教官も向いてないって思いましたか」

「…」

「私も思ったんですけどねぇ…私も案外、正義感だけは私なりにちゃんとあるので」

「…それなら、少しは大人しくしろ。せっかくの実力を腐らせるぞ」

「善処はしまーす」


にっこりとした顔は美しい以上に、やはり憎たらしく見えたが

正義感を語った時、揺るぎない意思を感じた。

もう少し、こののらくらとした変わり者の生徒の中身を見ようとすべきかと思いながら、コーヒーをすすった。



面談

(でも、私相手に一ヶ月もった教官は貴方だけだから尊敬してますよ、ゼファー教官…いえ、ゼファー先生?)

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