▽ 01
「はあ?問題児?」
海軍学校の廊下を、靴音を鳴らし歩きながら言われた言葉を聞き返す。
「ああ…それが…他の教官のところにいたんだが、全く手に負えないらしくな…」
「それで俺にか…どんな悪ガキだ…」
悪ガキや個性が強いのは沢山請け持ってきたが、手に負えないと言わしめ、回されてきた奴など始めてだ。
興味が少しばかり湧いて、渡された書類を眺めようとすれば、横の食堂の方から騒がしい音。
次の瞬間、目の前の扉を突き破って新兵たちが数人吹き飛ばされてきて、廊下の壁にめり込んだ。
「!」
「…噂をすれば…!」
隣の教官仲間が頭を抱えると同時に、食堂の中から一人の新兵だろう細身の女が現れた。
黒く長い髪を靡かせ、綺麗な顔立ちに浮かべた笑みには似合わねェ、拳を鳴らす音を響かせながら。
「…私にケチをつけたいなら、せめて数秒でも私の相手できるようになってからにしなさい。身の程知らずなんて、無様ね」
…どうやら吐き捨てる台詞まで一丁前らしい。
すると、気絶した野郎どもから、視線をこちらへと向け直した。
そして笑顔のままわざとらしく、タイミングが悪いと肩を竦めた。
「まさか教官たちがいらっしゃるなんて…あ、今日のランチはAセットオススメですよ」
「無理やりごまかすなァ!貴様また問題を…!!」
「あらあら失礼ですがゴーディル教官、私は悪くありません。私はCセットランチを食べていただけです」
「信じられるか!しかもAセットじゃないのかァ!」
「んー…今日のAセットはちょっと私は好きじゃありませんでした」
「さっき貴様勧めてきただろうがァァ」
…たしかに、問題児と言わしめるだけはある。
キリッと敬礼をしている割に、全く自分のペースを相手にあわせる気はないらしい。
「(クザンに似たタイプか…こりゃめんどくせェ)」
しかも女の身で、ガタイのいい男どもを数人吹き飛ばして壁にめり込ませるだけの武力もある。
「(…ものになれば、相当な海軍の戦力になるな)…おい、お前名前は?」
「…教官、お言葉ですが人の名前を知りたい時は、ご自分から名乗るべきではありませんか?」
…ああ、これは一筋縄ではいかないな。
「…お前の新しい教官の、ゼファーだ」
「なるほど…以後よろしくお願いしますゼファー教官。私はネメシスです」
変わらない笑顔の表情に、また厄介な生徒を抱えたとため息を吐き出した。
邂逅(で、結局何故こうなった)
(それより私のCランチの残りが冷めそうなんで、戻っていいですか?)
(…お前図太いだろ)
(いやだー太いだなんていきなり失礼ですね教官たら、もぎますよ)
(……(この野郎))
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