青春マリンブルー | ナノ


▽ 14


「前方に件の海賊船発見しました!!」

「あら…案外早かったわね」


部下の声に椅子に座ったまま背を伸ばしてから、立ち上がる。

中将職についてから、ある程度遠征を選べる自由が効くようになった。

無論、私はなるべく凶悪で強い奴とでくわせる任務を選んでる。

だって、全力で悪を裁いて叩き潰したいから。


「乗り付けますか?」

「その前に一発お礼参りが先よ。砲弾一個準備してー」


壁に立てかけた一対の鉄扇を持って、船室を出て甲板へ向かいながら指示をとばす。

爽やかな潮風を感じながら先を見れば、確かに討伐命令が出ている海賊団のジョリーロジャー。

ふう、とゆるめに煙を吐き出す。


「やだやだ、趣味が悪いマークね」

「中将、今日は裁定と判決はいいので?」

「ああ、お礼参りのあとにいくわ」


奴らは民間人を理不尽に殺しまくって強奪した海賊。

大方判決は決まっているけれど、加害者の告白も聞かないとフェアにはならないから。

そんなことを考えつつ、準備運動を軽くしていると、海兵が二人がかりで砲弾を運んできた。

それを見て鍛えが足りないと思いながら片方の扇をひらき、弾をひょいとのせる。


「お、重くは…」

「たった一つじゃない。軽いわ」

「(鉄扇の重さもある上に砲弾まで…)」

「(いつ見てもこの人細いのに力やべえ…)」


ひそひそ囁かれる声音を聞きながら、船頭の方に歩いていく。


「前討伐に来た軍艦はマストをやられたんだったわね」

「あ、はい!」

「じゃあとりあえず向こうのマストもいっとかないとフェアじゃないし」


扇の上でバランスを保たせていた砲弾を、ひゅっと上高くに軽やかに投げあげた。


「えーっと、南方12時の方向ね…」


もう片方の閉じたままにしていた扇を強く握り持ち上げ、ホームラン予告をマストに向けてから

落ちてきた砲弾に呼吸を合わせて、バットの容量で思い切り振りかぶった。


「狙うはホームランよ!『彗星砲弾』!」


弾き飛ばした砲弾で、遠くの相手のマストがぽっきりいって爆発したのが見えた。

我ながらナイスコントロール。


「いえいホームラン。あー…ガープ中将の技リスペクトしてよかったわ、ほんと爽快」

「中将、一連の全てを笑顔でやる中将が怖いです」

「味方なんだから頼もしいって愛しなさいよ。まあいいわ、とりあえず船近づけてって」


軽く指示をとばしながら、海賊船に近づき捕縛に入った。


***


「よっ、コーラ冷やしてるぞ」

「頂戴」


捕獲した海賊たちの引き渡しを部下に任せ、マリンフォードに帰港した。

本部に帰り着くなり、わざわざ待っていたらしいクザンから投げられたキンキンに冷えた瓶を受け取り、爪で開けて一気に煽る。


「はあー…生き返るわ」

「…遠征、相変わらず独り舞台だったらしいじゃない」

「まあね、楽な仕事だったから」

「連携プレーは相変わらずしねぇのか、部下が怖がってんだからもうちょっと緩和しない?」

「…別に邪険にしてるわけじゃないわ」


瓶を投げ返しながら、並んで歩き出す。


「そうだけどさ、」

「それに貴方も同じでしょ、ワンマンプレーは」

「俺はまわり巻き込みそうな能力だからだよ」

「甘えね」

「…案外サカズキ並に手厳しいよな」


ボゴォン

クザンの言葉に思わず拳が真横の壁を破壊しちゃったわ。


「うん、ごめん怖い」

「先輩と一緒にするからよ」

「だって似てるよ、ちょいちょいな」

「わあーすごく光栄な話だわー」

「棒読みはよしてくんない」


嫌見たらしく肩を竦めて言っていると、のしのしと近づいてくる足音。


「おお、ここにいたかネメシス…なんだ、クザンもいたんだでか」

「サウロか」

「あら、ただいまー」


現れた同僚であり同期の巨人、サウロの姿を見上げる。


「遠征ご苦労さん、ネメシス。コング元帥が報告待ってるでよ」

「ああ、クザンのせいで忘れかけてたわ」

「俺のせいかよ」

「デレシシシ…クザンは執務室に戻らねェと、休憩終わってるだよ」

「あー…仕方ねェなァ」


それじゃまた、と軽く手をふってクザンは離れていった。


「…珍しく出迎えかと思ったら、いいサボりの口実にされてたってわけね」

「デレシシシ!クザンらしいでよ」

「まあそうだけど。逆に善意でいられたらどうしたのって話だし」


言いながら、今度はサウロと連れ立って歩き出す。


「ところでネメシス、海賊討伐の活躍聞いてるでよ」

「あら、ありがとう。でもまだまだだわ」

「デレシシ…そんなに強くなってどうするだで。世界をよくしたいだでか?」

「ふふ、違うわよ。ただ…自分の理想のままにこの世界を変える勇者になってみたいの」


良くも悪くもね、と笑えば、サウロは不思議そうな顔をした。


「どういうことだで?」

「…サウロなら、多分そのうちきっと私の理想の意味を識るわ」


そうとだけ告げて、それより報告にいかないとと再び歩き出した。



理想は勇者

(教えてほしいだでよ、ネメシス!)
(うふふ、時がくるまでわからなかったら教えてあげるわよ)

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