▽ 10
真上を賊の鈍い鉛玉が通り過ぎる。
鼻がバカになりそうなくらいの血の匂い。
そんな戦場にも慣れたし、階級もとんとんとあがった。
かの悪名高きゴールド・ロジャーや白ひげとか相手だとわからないけど
その辺にいる海賊くらいなら一人で素手で沈められるくらいにはなった。
化け物と囁く奴もいるらしいけど、人間のままだった先輩や同期、後輩たちは皆死んでいったように思うから
多分そんな噂にかまけるような『人間』のままの奴らはまた近々、海の藻屑になるんでしょう。
「だからぶっちゃけ、仲間と書いて足手まといと読むような輩はいらないんですよね」
「少しは歯に衣を着せろ!」
「だってセンゴク大将、実際1000人の一般海兵連れ立つ艦隊より私のが強いじゃないですか」
「お前というやつは…!」
この前の遠征がまずかったらしい。
ワンマンプレーが過ぎて呼び出されてお説教。
全員ボコボコにして、更正まで約束して捕縛したからいいじゃない。
なのに、説教をまだ続けようとするセンゴク大将を制止したのはコング元帥だった。
「センゴク、落ちつけ…ネメシス、お前も少しは組織を遵守しろ」
「…お言葉ですが、処罰に当たるような軍規に違反する行為をした覚えはありません。むしろ、私の働きでこちらの被害は、先の想定を遥かに下回ったはず」
文句を言われる筋合いはない。
背筋を伸ばし笑顔のまま遠回しに言えば、元帥は眉間を抑えた。
「…お前は強すぎるんだ」
「それは…私だけではないかと思いますが」
「たしかに強さだけでいえばあの三人もだが…なんやかんや、奴らは軍に帰属している…だがお前は違うな」
「つまり…私が恐ろしいと」
「上がな、お前にいつか噛まれるんじゃねぇかと気が気じゃねぇそうだ」
くだらないわね。どうせ、進言したのはカンパニュラあたりでしょうけど。
あの女はみずをぶっかけて以来、やたらつっかかってくるし。
「だがお前は仕事はやるし、俺たちには頼もしい戦力であるのも事実だ。だから上も、お前の扱い方に悩んでるんだろう」
「知ったこっちゃありません。だいたい、そんなに私に噛まれるのが怖いなら、大人しくしてなさいと上にはお伝えください」
なにか負い目があるから怖いだけでしょう。
私の正義が。それに殉じた強さが。
言葉に出さず、貼り付けた笑顔の下で顔も見せぬ上を品定める。
「…ネメシス、お前なァ…ガープがなんていうと…」
「…中将は関係ないでしょう。それに…ご心配なさらずとも私が制裁を加えるのは、私の正義に反するものだけですよ」
スタンスを崩す気はないと告げて、踵を返す。
「!ネメシス!」
「プッチの喫茶店のワッフルが私を呼んでるの失礼します」
「仕事はどうしたァァ!!」
「最低限必要なとこまではやりましたー」
その後も聞こえる怒鳴り声を聞こえないフリをして、剃で部屋を飛び出した。
首輪がかからぬ獣(全く…ガープめ、どんな育て方をしたんだ…)
(まあそう言ってやるな…ネメシスは確かにああだが、いい加減なやつじゃない)
(…ゼファーの受け売りですか)
(ばれたか)
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