▽ 08
らしくもなく今までを振り返りながら、甘いフレーバーの真っ黒な煙草に火を入れる。
やっぱりBLACK DEVILが一番好み。
「ふぅー…」
甘ったるい匂いの煙を吐き出して、本部の木製の縁に肘をついて海を眺める。
ようやく訓練生から、本部のいっぱしの海兵になれた。
ゼファー先生を除く教官達は、特に私とクザンが無事卒業…というか、訓練所をでていくことを泣きながら喜んでくれたわけだけど。
「(まだまだ、先は長そうね)」
ようやく世界の舞台の、スタートラインに立ったといったところか。
だけどあとは一気に駆け上がる。
「(私には、私が正しくあるための力がいるんだから)」
「見つけたぞ!」
「!…あら、お久しぶりです」
横からかかった声にそちらを見れば、久しぶりに見た顔。
訓練生の時には絶対にこないで、と言ってあったから数年ぶり。
じゅ、と携帯灰皿に煙草を押し付けて消し、近づいてきたガープ中将と思い切りハグを交わす。
「ネメシス!ようやくここに来たか!待っとったぞ!!」
「ふふ、部下としてよろしくお願いします。ガープ中将」
「なんじゃ、堅苦しい。昔みたくお父さんで構わん!」
身体を離し、不満げに鼻を鳴らすガープ中将にやはりぶれないと笑う。
「さすがに任務中に、お父さんはまずいかと」
「今はわしとお前さんだけじゃからいいんじゃ」
「…はいはい、お父さん」
変わらない形でいてくれる父の姿に、自分の空気も緩む。
「しかし、訓練所でいろいろやらかしたみたいじゃな。ゼファーのやつから聞いたぞ」
「私は私の正しさを通してただけよ」
「…やれやれ、お前はどこにいってもお前か」
変わらないか、と言わんばかりのため息に苦笑を漏らす。
「そうよ、私は私。だから父さんに迷惑かけたくないし、なるべく血縁伏せようとしてるんじゃない」
「そういう話じゃあないわい。わしはお前の身を心配しとんじゃ。
お前は昔っから、わしにもわからんことを考えてるからの」
「だってお父さんにわかるようなこと考えてたら、きっと周りにもわかるじゃない」
「なんじゃと!?口はますます生意気になったな!!」
ごん、と軽く頭を拳骨で小突かれ、ごめんなさいと笑い返した。
「まったく…ところで配属先はこれからか?」
「ええ、明日には発表みたい。なるべくクザンとサカズキ先輩と違う班がいいんだけど」
「クザンとサカズキ?そんな深い知り合いなんか?」
「ただの腐れ縁と、多分お互いに気が合わない人よ」
さらりと本当のことを言えば、なぜかひどく安心したような反応をするお父さん。
「…大丈夫よお父さん、私好きな相手別にいるから」
「!そうじゃな。お前が恋なんてそうそう…ってなんじゃと!?」
「ふふ。それじゃあまたね、お父さん」
ひらりと手を軽く振って、その場を歩き出す。
詳しく語る必要はない。
だって、私のこの心を誰かに漏らしたりして、少しも預けたり、楽になったりする気はないから。
「(さあ、どこまで私は通用するかしら。無論誰かに負ける気はないけれど)」
舞台に(お前ガープさんの娘だったの!?)
(…なんでクザンが知ってるのかしら?)
(さっき通りかかって聞いた…ってか、やっぱマジなの?)
(…そうだけど、無駄に言いふらしたら覇気で引きちぎるから)
(ウィッス)
((好きな人云々は聞いてないみたいね…))
((こいつに好きなやつなんて……いやいるわけねーな))
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