4輪

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「旦那様、旦那様」

「…やかましいぞアヤ」


屋敷の廊下を早足にかけまわり、機嫌の悪い旦那様のお支度を手伝っていると、落ちつけと小突かれた。

でも今日は久しぶりの来客の日。

使用人である私は、おもてなしするのが楽しみでついつい張り切ってしまいます。


「旦那様はお髭をもっとしゃんと整えてくださいな!今日はご友人がいらっしゃるんですから」

「…クザンとボルサリーノだ。友人じゃない、ただの同僚じゃけェもてなしはいらん」

「クザン様とボルサリーノ様は友人だと前におっしゃっていましたよ。それにお客様には変わりありません」

「(あいつら…)」


クザン様とボルサリーノ様。

二人は旦那様とお若い頃からの軍でのご友人で、たまにこのお屋敷にいらっしゃっては楽しいお話を聞かせてくださる方々。

お二人も最近は家で仕事をのんびりとしているらしいので、旦那様のよき話し相手になってくださる。

私では、旦那様の難しいお仕事の話や複雑なお気持ちは理解できないから、お二人には感謝しているのです。


「ご夕食、腕を振るいますね」

「……大根の味噌汁が飲みたい」

「はい、わかりました」


なんやかんやリクエストをしてくる旦那様が可愛らしくて、小さく微笑んで頷いた。

今日は和食で決まりですね。

期待に添える料理を作りましょう。



***


「アヤちゃんやっぱり有能だねェ」

「ほんとサカズキにはもったいないな」

「やかましい。ほっとけ」


押しかけてきた同僚二人に、味噌汁をすすりながら吐き捨てた。

話題のアヤはキッチンの方に控えていて、聞こえてはいないだろうが

自分以外が賞賛するのは、誇らしい以上にどうも腹立たしくなる。


「もっと大事にしてあげないと可哀想だよォ〜」

「…衣食住や金には困らせておらん」

「そういうんじゃなくて、もっと褒めてあげるとか。お前みたいな偏屈で頑固なやつのところに残ってくれただけでも感謝すべきなんだから」

「おどれは喧嘩売っちょるんか」


クザンをじろりと睨めつければ、奴は本当のことだと肩をすくめた。

するとそこに、アヤが食後用のお茶を運んで来た。


「んしょ…皆さん、温かいお茶をどうぞ」

「ありがとうねェアヤちゃん。夕飯も美味しかったよォ」

「お褒めいただきありがとうございます、ボルサリーノ様」


花が開くような笑みを返すアヤに、少しばかりの苛立ちを覚える。


「…アヤ、もういい。下がってお前も夕飯を食え」

「あ、はい。わかりました。では、クザン様、ボルサリーノ様、失礼いたします」


長いスカートの裾を持ち上げて会釈をしてから、キッチンへと消えるアヤの背中を横目に見ながら茶をすする。

同僚2人の視線が痛い。なんだと言うんだ。


「やっぱり大事にしてない」

「ちゃんと見てあげないと出ていかれるよォ〜?」

「…あいつが勝手に残っちょるだけじゃけェ、出て行こうがしらん」

「「…最低だ」」

「放り出すぞ」


アヤのなにを貴様らが知っちょるというんじゃ。

わしとアヤの関係に、口を出すな。

そういう意味を込めて睨めつければ、2人は盛大なため息をついた。

本当になんだと言うんじゃ。



あの主従はいつ爆発するのか

(1番わかってないのお前だからって超言いたいよ俺は)
(アヤちゃん、サカズキのことあんなに愛しそうに見てるのにねェ)


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