2輪

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ひたすら紙の上にペンを走らせる。

わしを説き伏せるためのとってつけたような書類仕事。

目が疲れるだけの対して意味もないものばかり。

実戦から退かされ、書類ばかり書かされ、ほとんど退役したも同じ扱いじゃあないか。

こうなってから何巡目かもわからない不満を頭の中で考え、力を入れすぎてまたペン先を潰した。

これで何本目だ、惰弱な。

机にペンを叩きつけて舌打ちをした時、目の前の扉から軽いノック音。


「…アヤ、入れ」


この屋敷の中にいまだいる自分以外の存在である家女中の名を呼び促せば、茶の支度をしたカートを押して入ってきた。


「失礼し…まあ、旦那様…またペンをダメになさったんですか?」

「…どうせ大した仕事じゃないんじゃ、書けなくとも構わん」

「…そんなこと仰らないでください。せっかくいただいたお仕事なんですから」


わしの手にいたわるかのように手を重ねて言ってくるアヤを眺める。

他の者が辞めていった中、一人だけ残った変わり者。

学はないが家事仕事に秀で引く手数多な癖に、衣食住以外は望まないと言って

何故か今も、わしのそばに残った。


「ペン先は買い出しの時に買って参りますが…あまりイライラなさらないでくださいな…仕事に貴賤はありません」

「…実戦から遠ざかった軍人など死んだも同じじゃ」

「それでも旦那様…私の主人である貴方様は何もお変わりにはなっておりません」

「……お前は難しいことがわからんだけじゃ」


頬を撫でてやると、動物のように目を細めて気持ちよさそうにする。

血の染みたわしの手でも、けして嫌がることはない。

純粋故か、無知故か。


「……やはり、変じゃのうお前は」



我が屋敷の家女中

(だが手放そうと思わんわしは、もっとおかしいのか)


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