8輪
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庭のひなげしに水をやる。
柔らかい陽だまりの中、世話をする。
これは変わらない日課。
ただ少し、この日常はあの人との関係と共に変化した。
「…アヤ」
「!あら…お仕事は終わりに?」
「いや…ひと段落付きにきた」
「そうでしたか…お茶をお淹れしますね」
まず一つ、篭りがちだったサカズキさんが少しは自分から外に出てきてくれるようになったこと。
心配だったから、とても嬉しい変化でした。
「…かまわん。それよりアヤ、おどれも少し休め」
「え、でも…」
「…働きすぎじゃ」
なにか言う前にさっと抱き上げられ、ガーデンチェアに座ったご自分の膝の上に座らせられる。
これが二つ目の変化。
サカズキさんは相変わらずぶっきらぼうだけど、前より優しくなって、触れてくることが増えました。
少し慣れないけど、これも幸せを感じられる変化。
それから…
「…もうお前一人の身体じゃないんじゃ。何かあったらどうする」
「大丈夫ですよ。家のことをやるくらい」
「……ならん。少し控えろ…今は腹の子を大事にせい」
そっと少しだけ張ったお腹を撫でられる。
これが三つ目。
一番の変化とも言えることでしょうか。
サカズキさんとの子供が、お腹に宿ったのです。
できた当初はすごく嬉しくて、また泣いてしまいました。
「…サカズキさんは案外心配症ですね」
「おどれが抜けとるからじゃァ」
「まあ…そんなことありませんよ」
「間違いなくある」
嘘をつけと短く言って、私を膝に抱えたままポットの紅茶を注ぐ姿はなんだか可愛らしい。
息を漏らすように小さく笑ったら、じろりと見られた。
「なんじゃ」
「いえ…可愛いなと」
「…わしがか?馬鹿を言うな。そう言うんは………」
言葉を切り、私を見て言い淀むサカズキさんに、やっぱり貴方が可愛いと内心吹き出したいのを堪えて
湧き上がる愛しさのままに首に腕を回して、頬にキスを送る。
「ッアヤ…!」
「…えへ…愛してますよ、あなた」
「…………バカタレが…」
じんわりと幸福感が広がる世界で、ひなげしが祝うようにやわらかい風にそよいだ。
主人と女中→夫と妻
(とある館の物語)
(それはこうして一つの終幕を迎えた)