「…ですからその…当店には置いていなくて…」

「コンビニだろォが置いとけよ!!」

「す、スミマセン…」


バイトの私に言われても、と思いながらひたすら謝る。

これだから、まだ外も薄暗い時間の冬の早朝バイトは嫌になる。

こういった困ったお客様には早くお帰り願いたい。

しかも店長も外に行ってしまって、私一人だし、仕事にも支障をきたす。


「(どうしよう…)」


対応のしようがなくレジで困っていると、怖い若いお兄さんを押しのけ、

カウンターに見慣れた缶コーヒーと新聞紙を置いたジャージの人。


「ショウガンちゃん、会計頼むよォ」

「!…あ、お、お客様…」


何もなかったように、いつもの飄々とした調子で目の前に現れた黄色のおじ様に目を見開く。

いつの間に来てたんだろう。

というか今、お兄さん押しのけたけど…

ツッコミどころが多い行動に戸惑っていると、押しのけられたお兄さんが黄色のおじ様に食ってかかった。


「なにすんだオッさん!!」

「ん〜…?会計終わったんなら早くどっか行けよォ若ェのォ〜」

「てめェ…!」

「…行けって言ってんだろォ…あんまりしつけェならこっちも考えがあるよォ〜…」


始めて聞くおじ様の低い声と、鋭くお兄さんを睨むサングラス越しの瞳に

すぐに態度を変えて逃げ出したお兄さんだけでなく、かっこいいと思う以上に私までぞくりとした。

ヤクザさんの迫力というやつなんだろうか。


「…ったく…ショウガンちゃん、大丈夫だったかァい?」

「は、はい…あの、ありがとうございます…えっと…、…」

「ボルサリーノでいいよォ」

「ボルサリーノ、さん…ですか。本当にありがとうございます…助かりました」


黄色のおじ様の名前は、ボルサリーノさんと言うんだ。

先ほどとは打って変わった優しい瞳と労わる声音に、すこしだけ胸が熱くなり、きゅっと締まるような感覚がした。


「あの手のやつには気をつけなきゃねェ、ショウガンちゃん」

「……アヤ、です…」

「ん?」

「私の名前…アヤ、って言います…」


気づいたら口をついて出ていた。

名前を教えてもらったせいか、なぜか私の名前を知っていて欲しいと思ったから。

ボルサリーノさんはちょっとおどろいていたけど、すぐに笑みに戻して名前を呼んでくれた。

それにまたちょっと胸がきゅうってしたのは秘密。


「…いつもお買い上げありがとうございます、ボルサリーノさん」

「また明日ねェ、アヤちゃん」


会計を済まして薄明るくなりだした外へとでていくボルサリーノさんの背中が、いつもより名残惜しく思えた。



新しいペン先が滑りだす

(ゆっくりとインクが滲むように、不思議な温もりも)