「今日は冷えるねェ〜」

「えっ、あ、そ、そうですね!」


雪でも降りそうな、とても冷え込む日。

いつものようにレジに徹していたら、その人に始めて声をかけられた。

いつも同じ時間にきて、同じものを買っていく黄色いジャージに黄色のサングラスの、失礼ながらヤクザにしか見えない黄色のおじ様。

ずいぶん長い常連さんだけど、短いながらも、初めての会話だった。

間延びした声音が、特徴的な人だと思った。

今まで見た目の怖さから、なるべく関わらないようにしていた分

やけにその声は私の耳に残りました。


「(ああ、びっくりしすぎて変にどもっちゃったべ…)」


この人にとっては、なんてことない独り言にも等しい話だっただろうに。

変に思われてないかな…気分損なってキレられたらどうしよう。

ぐるぐるとネガティブな方向に思考を回しながら、冷静を装っていつも通りに振る舞い、商品を渡す。


「…いつもお疲れ様ァ〜…ショウガンちゃん」

「!」


予想外のねぎらいの言葉と苗字を呼ばれたことに、またびっくりして顔を上げると

サングラスの奥の垂れ目を優しげに一瞬細めて笑って、黄色のおじ様は去っていった。


「…(ネームプレート、見られてたべか…)」


私は怖くて関わらないようにしてたのに、向こうはそうでもないらしい。

怖い顔は正直、身内で慣れているけどあの人のはなんだか、別物の恐怖を感じるから避けてたのに。


「(……でも、いつも会うレジ打ち店員だから、気まぐれに話しかけてきただけだべ)」


ネームプレートも毎日のように見てたら覚えもするはず。

私はヤクザのおじ様に目をつけられるようなことはしてないもん。

ただでさえ、最近怖いことが続いているのに…これ以上考えたくない。

そうして怯えた気持ちを無理やり浮上させて、品出し作業に戻ったのだった。



書き出しの言葉は紡がれた

(レジ越しの与太話にも満たない会話が、全ての始まり)