ほろほろと真夜中の冷たい空から落ちる雪が、薄く現場にも積もる。

この都会に雪が降ると厄介なだけだというのに、溜息がわりに白い息を吐き出した。


「まったく…犯人もこんな日に事件起こさなくってもいいのにねェ〜…」


あの子に会いにコンビニに行く時間がとれるだろうか、とまあ、そこそこに不謹慎なことを考えつつ

警察だって一個人の集まりで、プライベートがあるんだと

最近ようやく、自分に心をよせて来てくれた可愛いコンビニ店員のことを考える。


***


「アヤちゃん、おはよう」

「あ、いらっしゃいませ!おはようござ…」


軽やかな入店音と声に顔をあげれば、そこにはいつものジャージではないボルサリーノさんがいた。

黄色と橙の縞のよく目立つ鮮やかなスーツに、緑のネクタイを締めた姿。

おまけにトレンチコートを羽織っている。

目新しい姿に目を奪われ、言葉が切れた。


「?…あァ、昨日の夜から仕事場に缶詰でねェ…仕事着のままなんだよォ」

「そうなんですか。いつもと格好が違ったんで、びっくりしました…」


やっぱり会社員とかには思えない派手なスーツ。

すごく似合ってるしかっこいいけど、ドラマで見る裏家業の人とかにしか見えない。

じっと見ているとボルサリーノさんがいつもの商品を手にしてレジにきて、困ったようにわらった。


「似合わない?」

「!ち、違います…!…むしろ…素敵、です…」


頬が熱くなるのを感じつつ、目線を下にやりながら言えば、きょとんとしたあと、彼は嬉しそうに笑った。


「ありがとうねェ〜…アヤちゃんに言われるとすごく嬉しいなァ〜」

「えへへ…そんな言い方されたら、変な勘違いしちゃいますよ」


恥ずかしさから冗談めかしたようにわらってレジ打ちを始め、いつものようにお金を受け取ろうと手を差し出すと、そっとその手を握られた。


「!…ボルサリーノさ…?」

「…いいよォ?勘違いしても」


え、と予想外な答えに顔を上げると、優しく目を細めて見下ろしてくるボルサリーノさん。


「…むしろしてほしいなァ…わっしはアヤちゃんが好きだからねェ」

「…え?えっ!?」

「それじゃあこれ会計ねェ〜」


さらりと言われた台詞に一拍おいて驚き、口をパクパクさせる私に面白そうに笑うと

握っていた手にぴったりお金を渡して、商品をいれた袋をとると、また来るねェと出て行った。


「(い、今のはつまり…こ、告白じゃ…!?)」


まさか、と思いながらも脳内回路が熱で爆発したような私は、叫んでしまいたくなりそうな気持ちを抑えようと、店の裏へと走り込んだ。



文章にならない気持ち

(うそうそ!!冗談に決まってる!!…でも本当なら…ぁああ…!!)
(あんなに動揺して、かわいいなあ)