春の朝の真っ白い清らかな太陽光がリビングを照らす。

なんて清々しい朝だろうか。

しかしこの部屋に住む、リビングの食卓で顔を付き合わせる二人の男女の空気は淀んでいた。


「最悪ね」

「最悪だな」


女は言葉に似合わない笑顔で、男は言葉通りの表情で。

二人の間に流れる空気は一触即発といった感じだ。


「私は目玉焼きにはナチュラルでシンプルな塩がいいんだけど」

「奇遇だね、俺もだよ」

「あらそうなの?なら私たちの互いの目玉焼きに今かかってるものは何?」

「砂糖だろ。今さっき食べて同時に水飲んだし」

「そうよね。やっぱり砂糖よね………なんで塩じゃなくて砂糖?」


食卓の真ん中にある白い結晶の入った瓶を変わらぬ笑顔で見つめる。


「お前が持ってきたんじゃん」

「私はそんな記憶ないわ。クザンでしょ」

「なんでもかんでも俺のせいにしないでくんない?ネメシスが寝ぼけたままこれ持ってきたんじゃん。俺目玉焼き焼いてたし」

「…わかったわ。たしかに100歩ゆずって持ってきたのは私としても、ラベル貼り忘れてるクザンが悪いわよ」

「今まで便の蓋で判断してたじゃん。寝ぼけてかける方が悪いよね」

「その言葉、そのまま打ち返すわ」


そこまで言いあって、二人は深い息を吐き出した。


「ったく…冷蔵庫に残ってた最後の卵だったのにさ…朝飯食いっぱぐれかよ」

「…はあ…こうなったら最終手段ね。携帯借りるわよ」

「え!?ちょっ」


クザン、というらしい男の携帯をとった女、ネメシスは素早くメールを打ち、あっという間に送信した。


「これで私たちの朝ごはんは護られるわ」

「誰にメールしたんだよ…?」

「決まってるじゃない。愛しのアヤちゃんよ。きっとあの子ならきてくれるわね」

「!お前まさか…休日の朝っぱらから朝食作らせに人の彼女呼びつけたわけ!?」

「家近いからいいじゃない。ちなみに貴方口調のメールでしたから」

「それ俺がまるで生活力ない、彼女を顎で使うとんだクズ男みたいになるよね!!」

「あはは、女泣かせは今更今更」


抗議を軽く笑い飛ばすネメシスに、ルームシェアを始めてから何度目かわからない殺意を覚えるが、それどころではないと、なんとか押しとどめる。


「(とりあえず着替えてしゃんとしてむかえねェと!せめて!!)」


寝起きで、寝巻きのままのだらしない自分の姿をなんとかせねばと自室に急ぎ戻るクザンだった。



ある晴れた日曜日

(アヤ、休みなのにごめんねマジで)
(そんな…構いませんよ。もう起きてましたし)
(アヤちゃんが嫁力あるいい子で助かったわ)
(えへへ…これくらいしかクザン先輩のお役に立てませんから)
(…アヤったらまじ俺の天使ッ)