やられた。

真っ赤なドレスを纏った美しい女は、乗ってきた船の縁から豊かだったはずの焼け焦げた島を見て、深いため息をついた。


「…一足遅かったみたいだな、母さん」

「ええ…政府にも困ったものです…あの『化け鏡』…」


自分を母さんと呼んだ相手よりも若すぎる見た目をした彼女は、島だったものの惨状に腹立たしそうに、しかし悲しそうに目を伏せた。


『魔女』


そう世界に蔑まれ、呼ばれる彼女は、目の前で新たに刻まれた歴史という名の情報を記すため、黒い手帳を開く。

正しい情報を書き留めるため。

正しい歴史を見てきた証を残すため。

その一心で、彼女は目の前の島の悲劇を書き綴っていく。


「(…これが私にできる、世界への『干渉』…)」


ぱたり、と手帳を閉じて、いまだ空気の中に残る死の匂いを自らの能力で嗅ぎ取る。


「……(魂がまだ漂って…)」

「ママー、ここ寒いよぅ」

「ママー、ここ苦しいっ」

「…感じとりやすい子供には、よくない場所ですね…クリス、ダイア。気をしっかり持ってなさい。すぐに海域を抜けますから」

「「はぁい〜…」」


双子だろうか、互いによく似た二人の少女の頭を女は撫で、後ろに控えていた色気のある美女に声を掛ける。


「ルゥナ、船をグランドラインに戻します。最短航路を」

「はあい、マザー。任せて頂戴」


かえってきた返事に満足したのか、今度はしゅっと背が高い最初に声を掛けてきた女に視線を向けた。


「シエル、彼女の奪還はとりあえず諦めます」

「…わかった。しかし、ハナンナ義姉さんに顔向けできないな…」

「ええ…ですから、このまま終わる訳にはいきません…それに、あの子を政府側にとられたままでは、まずいですから…」


いずれはと呟いて、もう一度島だった焦土を一瞥した。



魔女の手記

(やってくれましたね、世界政府)