「…アヤと、別れろと?」

『ああ…お前には悪いが、関係を切れ』


受話器越しのドフィの声は、苛立ちはなく嬉しそうだった。

当然か。フルール…フロールがわりの娘が自分を裏切らなかったのだから。

それと引き換えに、傷つく必要のなかったアヤは深く傷つけられたが。


「…助けようとした相手に最後に裏切られた…あれほど滑稽で屈辱的な負け方をさせられた。それで十分じゃないのか?」

『たしかに、フルールは俺の考え通りよくやった。だが念には念をな…

今失意の中にいるショウガン・アヤの反抗心を、完全に折っておいて損はねェ』

「…わかった」


恩赦は認められないなと悟り、短く了承した。

今回は、手を出した相手がフルールなのがまずかった。

…いや、まずかったというのはアヤ側からの意見か。

ドフィは今回の件で機嫌が良くなったと聞いたし、フルールも前よりも行動が自由になったとイディから聞いた。

あの二人からすれば今回の件は、いい方向に進むためのちょうどいい踏み台になったんだろう。



「…」

『…ヴェルゴ?どうした』

「、いや…なんでもないさ、ドフィ」

『…まさか本当に、アヤに情でも
うつったのか?』

「そんなことはない…お前の命令は遂行する」


俺はお前を裏切らない。

そう、悟られないように言えば少し間をおいて、そうか、とだけかえってきた。


「…すまない、そろそろ海軍の仕事があるから切るぞ」

『ああ、じゃああとは任せたぞ』


受話器をおいて、椅子に深く沈む。


「……(やはり、悪女の血と関わらせるべきじゃなかったか)」


結局俺がますます失意の底に追いやるなら、全てあの時、焼き捨てるべきだった。


「…アヤ…」


どう別れを告げるかと考えながら、深い深い息を吐いた。



後悔先に立たず

(愛している。だが、もはやそれは口にできない)