「…」

「ご執心だな、ヴェルゴ」


去って行ったアヤの背中を見つめるヴェルゴに声をかける。

静かに振りかえってきたヴェルゴと、サングラス越しに視線があう。


「…不用意な発言はしないで欲しいんだが、イディ」

「わかってる。だがいまはここに誰もいない」


だからそう照れんなよ。

くつくつと笑って言えば、ヴェルゴは短く息を吐き出した。


「そう言うからかうところだけは、妙に兄に似てるぞ」

「ははっ…よろこべねぇ話だな、それ」

「…で、何故アヤにあんなことを言った」


嫌味を笑い飛ばすと、本題に戻してきた。

特定の女に対し、これ程入れ込むヴェルゴは初めてだ。

面白いことになったと思いながら、疑問に答えるためにゆっくり口を開く。


「なに…簡単な話だ。俺の性格は知ってるだろ?」

「…また得意のチャンスというやつか」

「そうさ。人生を変えるチャンスは誰にでもあるもんだ」


するっとコインを出して、指の間で踊らせて弄ぶ。


「人生を変えたいかはそいつ次第だが、転がるチャンスに気づかせる手助けを一度くらいしてやってもバチは当たらないだろ?」


情を『与えてやるべき』相手なら尚更。

ピンッと、コインをヴェルゴにむけて弾けば、上手くキャッチされた。


「…お前は、アヤを気にしているのか」

「そりゃあ、まあな…気にするだろ。俺に繋がってるし、仲間のお前が初めて好んだ相手だ。欲しいなら奪って連れ帰ってきてかまわねェと思ってる。

あいつもそのはずだが…今のあいつはあの女に惚れてから、少し馬鹿になっちまったよ。判断が変わった。もういない女のことが俺たちより第一だ」


だが、冷静な時は昔のままだからついていくがなと肩を竦める。

するとヴェルゴは、そうかと短く答えた。

それを見ながら、伝えたいことを伝えてから帰るために立ち上がりつつ、口を開いた。


「…ヴェルゴ、ドフィはアヤを嫌ってる訳じゃねェが、警戒してる。フルール…いやあの女がかかったあいつなら、アヤのことも消しかねない。

本気で欲しいんなら、大事にして、ちゃんとドフィにそう言えよ?…俺にアヤの首を狩らせてくれんな」


言いたいことはそれだけだ。

そう言って背を向ければ、背後からコインが飛んでかえってきたので、それをふりかえらず受け止める。


「忠告は、受け止めた。だがドフィの決めたことには従う…どんな結果でもな」

「…そうか。お前はやっぱ、お前だな」


かえってきたコインを握りしめ、じゃあなと今度こそ船への道を歩き出した。



舞台裏の奇術師

(チャンスをちらつかせたって)
(結局、生かすも殺すも本人次第だお客様)