決意から数ヶ月、時はあっという間に流れた。


「できた…(これなら…上に報告できる…)」


まとめあげた書類を一枚一枚見つめ直し、はぁと深く息を吐き出し椅子の背もたれにそって沈み込む。

長い一仕事を終えて力が抜けた。


「(あとでアポをとってから、コング総帥のところに持っていこう…)」


書類を鍵付きのひきだしにいれて、鍵を閉める。


「(きっとこれで助けてあげられる)」

「…アヤ部長、失礼します」

「!」


入ってきたのはヴェルゴさんだった。


「ヴェルゴさん…!どうしたんです?」

「会いたくなってな…理由がなくてはいけないか?」

「そんなこと…会えて嬉しいです」


久々に会えた年上の恋人に嬉しくて舞い上がり抱きつけば、しっかりとだきとめてくれる。

そのまま、決まりごとのように触れるだけのキスを交わす。

はずだったけど、今日は違った。

ぬるりと唇を割って、舌が入ってくる。

急な深く長いキスに対応できず、息がうまくできない。


「はっ、ふ…ぅん…」


頭がとろけてしまいそうな感覚に耐えていると、唇が離れた。


「は、ぁ…っ…」

「…、アヤ…大丈夫か?」


くたりと力の抜けて崩れそうな身体を子供のように抱きあげられる。


「はぁ…ヴェルゴ、さん…いきなり…っ」

「最近のお前は仕事仕事ばかりだったからな…さみしかったと言ったら、笑うか?」

「!…そんなこと…むしろごめんなさい…寂しい思いをさせて…」


そっと愛しい人の頬を撫でると、私には大きいソファに私を抱きしめたまま横になった。


「…アヤ…お前のそばが一番よく寝れるせいか、最近眠れてなくてな…謝罪する気持ちがあるなら付き合ってくれ」

「え、でもここ執務室ですよ…人が来たら…」

「大丈夫、鍵をかけたし、少しだけだ。お前も疲れてるんだろう?」


くまがある、とごつめの指先が私の目元を優しくなでた。

優しい手つきと抱きしめられてる温もりに、すぐにうとうとと瞼が落ちてくる。


「…ん…ちょっとだけ、ですよ…」

「ああ、わかってる」


抱きしめてくれる腕の力が強くなったのを感じながら、ゆっくりと目を閉じた。


***


「(寝たか)」


余程こんを詰めていたんだな。

ぐっすりと眠り込んだアヤから離れるようにソファを降りて

手にした、掠め取った机の鍵を見る。

アヤが大切なものをどこにしまうかは、わかっている。


「(…これはお前のためなんだ、アヤ)」


鍵のかかった机の引き出しの鍵穴に鍵を差し込んだ。

するとアヤが少し身じろいだ物音。

鍵から手を離し、顔をあげれば安らかな寝顔が目についた。


「ん…ヴェルゴ、さん…好き…」

「…アヤ…」


可愛らしい寝言を聞いて名前を呼べば、聞こえているかのように幸せそうな顔で身じろいだ。


「…(お前も、今を崩したくないだろう?)」


だから俺は、ここにあるだろう書類や証拠を焼き捨てたい。

何年もかけたお前の努力なのはわかってる。無くなれば失意に落ちるだろう。

しかしドフィに挑むのも、先の見えた結果だ。

わざわざ苦しい思いをしてほしくはない


「(偽りの俺だが、愛したのは事実だ)」


だから、許せアヤ。

そう思って引き出しの鍵を回そうとするが、らしくもなく躊躇ってなかなか手をかけられない。


「…」

「ん…」


たらんと、ソファからアヤの力の入ってない細い腕が落ちる。

その白い手首には随分前に送った、オレンジの天然石のブレスレットが光る。

それを見て、はぁと深い息を吐きだし、鍵を抜いた。


「(悲しむ姿は見たくないが…それ以上に
アヤを俺が失望させたくはないな)」


そっと近づいて落ちた手を取りソファの上に戻し、鍵もアヤのポケットの中にかえす。


「…アヤ…お前はあの娘にかかわるべきじゃなかった…」


後悔して気づいてくれと、前髪をあげた小さな額に口付けた。



裏切り者の恋

(…、…ん…)
(アヤ、ぐっすり寝てたな)
(ヴェルゴ、さん…?いま…何時ですか…)
(もう夕方だ)
(え…そんな時間ですか…寝すぎちゃった)
(たまにならかまわないだろう。どうせだ、一緒に夕飯でも食べよう)
(…えへへ、一緒にご飯嬉しい…私が作りますから、あとで自室にきてください)
(ああ、わかった)


back