「ゼファー先生…」

「ああ…アヤか。また見舞いにきてくれたのか?」


変わらないはずの笑顔にも、なんとなく影を感じる。

当然かもしれない。


「…先生…もう痛みは大丈夫なんですか…?」

「ああ、だいぶいい。お前も忙しいだろうに、ありがとよ」

「いえ、そんな…私が来たくて来てるんです」


ゼファー先生の言葉に少しだけ微笑んでそう返す。


「そうか…」

「はい…といっても、今日は早く戻らないとなので、もう行きますが…」

「わかった、なら引き止めるのは悪いな」


そういって、癖でか、ない手を伸ばそうとして思い出したように動きを止める先生。

一瞬、苦虫を噛み潰したような顔をした。

それを見て、少し涙が滲みそうになるのを耐え、ハグをして医務室を出る。

後ろ髪をひかれながら、本部の廊下を歩く。


「…、進まねばならない…蒼き、その先へ…」


教えられた海導のフレーズを、震える唇で紡いで

降りかかる悲しみに、止まってしまいそうな自分の背を押す。

どんな悲しみや苦しみが起ころうと、日々は進み、世界は動く、立ち止まる訳にはいかない。


「(私は…情報伝達部の部長…動く世界の最先にいないとならない…)」


立ち止まって、置いていかれる訳にはいかない。

だから涙を携えても、進み続ける。


「っ…(私には終わらせなきゃいけないこともまだある…)」


ぎゅ、と視界を覆う液体を腕でぬぐい、まっすぐに執務室にむけて歩く。


***


部屋に戻ってきてすぐ自分の机の鍵付きの引き出しから、書類を取り出す。


「フルール、さん…(私は、この仕事を完遂させなきゃ…ドフラミンゴさんの悪事を暴くんだ)」


周りには踏み込むなと言われてるけど、私の正義感にかけて暴きたい。

それに、あの子の淀んだ目をなんとかしてあげたいから。


「(誰も味方じゃないなら…私一人でも…もう少し調べをつければ、上も審問会を開いてくれるはず)」


悲しみに沈んでる暇はない。

今をまだ強く生きていかねばならないから。

私にしかできないことがあるから。


「(少しでも悲しみを減らしたい)」


胸に強い決意を抱いて、仕事に打ち込むことにした。



悲しみの底で芽吹く

(最近アヤ部長、仕事ばっかしてるな)
(不幸がたくさんあったから仕事に打ち込んでるんじゃないか?)


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