「…はあ、結婚…ですか」

「ああ、お前も見た目は若いが近々25だろう。いい歳だ」


そろそろ考える気はないかとお見合い写真の束をコングさんに渡された。

パラパラとめくると、政府役人さんやら貴族の人ばかり。

途中にスパンダムさんとかもいましたが、これは相手こそお嫌でしょうと見なかったことにした。


「海兵は屈強だが、いつ命を落とすともわからんからな…未亡人にはなりたくないだろうと思ってよ」

「んん…考えてくださったのは嬉しいですが、お役人さんや貴族の方に私のような田舎娘は釣り合わないと思うんです…」

「今はもう立派な情報伝達部長という政府の組織の一手を担っている立派な女だ」

「買いかぶりすぎですよ」


高すぎる評価に苦笑し、お見合い写真を閉じた。


「…どちらにせよ、このお話はお断りします。きっと互いに考え方も合わないと思いますし」

「そうか…なら、想う相手の一人や二人いないのか?たとえば三人の誰かとかどうだ?全員今の今まで結婚の一つもできてねェような奴らだがお前なら…」

「もう…いやですね。何仰ってるんですかコングさんたら。あの人たちには、私は幼すぎますよ」


冗談にしかとれない言葉に、くすくすと笑ってしまう。


「あの方たちには同年代の方とか…もっとしっかりした方のほうがきっとお似合いです」

「…それなら良かったんだが、奴らの記憶にはろくでもない同年代の女の記憶が焼き付いてるからな…」

「…もしかして、一時海軍大将をやってらした『闇鬼』のネメシスさんですか?」


資料で見た、クザンさんの同期だった退役者の人を思い出す。


「ああ…あれは忘れようにも忘れられねェ」

「…そうなんですか…でも大将だったんですからきっと、立派な方だったんでしょうね」

「見た目と戦闘能力だけはな。しかし中身が女として恐ろしいほど破綻してた」

「そんなに、ですか…?」

「そんなにだ…だから奴らにはお前ぐらい穏やかな方が丁度いい」


コングさんにここまで言われるネメシスさんは一体どんな海兵だったのか気になるけども

このままではほんとに押し切られてしまいそうかなと立ち上がる。


「…だとしても、皆さんが結婚を希望されてるのかわかりませんし、私が相手なんて、なおさら迷惑かもしれませんから

とりあえずこの話は今日はここまでにさせてもらいますね」

「…そんなに結婚するのは嫌か」

「結婚が嫌というか…私を愛してるから結婚してほしいと思ってくださる方に

私は一生尽くしていきたいと思いますので…相手や自分の意思を無視した婚姻は嫌なんです」


ですから、このお話はせめて保留でと敬礼して部屋を後にした。


「……全然あいつら気づかれてねぇぞ」


***


「アヤ、しばらくアーニャとして東の海側に行くとセンゴクさんから聞いたが」

「ええ。平和な海だからとしばらく触れずにいたんですが、最近どうも東の海の支部がきな臭いので…」


ちょっと様子を見に、と荷物を詰めながら言えばサカズキさんはそうかと短い答え。


「…誰もつれていかんで大丈夫か」

「東の海に入るまではダルメシアンさんが来てくれますし、その先の護衛はジャスミンちゃんがいますから」

「…なにかあったらゴールデン電伝虫を…」

「押しませんよ?」


心配してくれるのはありがたいけれど、過激すぎて迂闊に呼べない。

小さく苦笑してトランクの蓋を閉めた。


「どれくらい向こうにいるつもりなんじゃ?」

「おそらく1ヶ月か2ヶ月以上は本部を離れるかと…」

「……長すぎやせんか」

「ふふ、寂しがりやみたいなこと言わないでくださいよ。タンたんさんですか」

「兄ィと一緒にするんじゃないわい…こっちにこい」

「はいっ」


膝をついて、トランクごと片手で軽々と抱きあげてから歩き出したサカズキさんの胸元にぎゅっとしがみつく。


「行き先はダルメシアンの軍艦でええんじゃな?」

「ええ、お願いします」


返事をしながら、すんと鼻を鳴らして、しがみついた胸元に顔を押し付ける。


「…なんじゃ。寂しいのはおどれの方か」

「…だって…こんなに離れることもありませんし…たまに電話していいですか?」

「…あぁ、かまわ…」

「いつでも掛けといで、ワンコールでとるから」


突然後方からかかった声に顔を上げれば、クザンさんの顔があった。


「サカズキに甘えてるなんて珍しいね」

「……クザン…おどれ…」

「なにさ。サカズキだけアヤといちゃついてずるい」

「いちゃついとらん」

「アヤ〜、こんな強面より甘えるなら俺のがいいよ」

「クザンに甘えたらまたアヤちゃん刺されそうだけどねェ」

「あっ、ボルサリーノさん…」


次に前方から歩いてきたのはボルサリーノさんだった。


「もうないって。嫌なこと言わないでよね」

「事実じゃねェかァ〜…アヤちゃん、長期遠征なんだってねェ〜…気をつけるんだよォ」


ちゅ、といつものように額にキスを落とされると、クザンさんとサカズキさんが目を見開いていた。


「ボルサリーノ…ッ…お前!」

「公然とアヤにセクハラしないでよね!!」

「ガキみてェに騒ぐことじゃないだろォ〜?」

「?」


頭上で交わされる会話をぽやんとしたまま聞いていると、ボルサリーノさんの後方にダルメシアンさんが見えた。


「ダルメシアンさん」

「軍艦の出航準備が整いましたので、アヤ部長を迎えにあがったのですが…無用でしたか」

「いえ、ありがとうございます…サカズキさん、ここまでで大丈夫です。助かりました」

「…わかった…東の海なら滅多なことはないじゃろうが、油断して怪我はするんじゃあないぞ」

「はい。肝に銘じておきます」


荷物と一緒に降ろしてもらい一礼すれば、クザンさんがしゃがんで抱きしめてきた。


「アヤ、早く終わらせて帰っておいでね。俺も寂しいから」

「ふふ、頑張りますね」


それでは、行ってきます。

そっとクザンさんから離れて敬礼をし、荷物を持ってくれていたダルメシアンさんと軍艦に向かった。

まず向かうは東の海の、シェルズタウン。

モーガン大佐が指揮する支部がある島だ。


「(息子さんのヘルメッポ君共々、お元気にしてらっしゃるかしら)」



新たなる門出

(ジャスミンちゃんは、)
(先に軍艦に乗っております…ところでアヤ部長)
(はい?)
(…抱き上げさせていただいても、よろしいでしょうか…いえ、その、歩調が合わないので)
(?ええ、構いませんよ。気づかなくてすみません)

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